みなさん、最近、深呼吸していますか?寒さや感染対策で心身が緊張してしまいがちな季節。でも、意識的に大きく息を吸って、ゆっくりと吐く・・・実はそれだけでカラダにもココロにもうれしい変化が起こるのだそうです。今回はそんな深呼吸について東京都立大学人間健康科学研究科の北一郎(きた いちろう)先生に、お話をうかがってきました。
※深呼吸を行う際は、人との距離に十分ご配慮ください。
深呼吸はカラダに
どんないい変化をくれるのでしょう?
深呼吸は、脳の神経細胞に酸素をしっかり届けることができます。また続けていると脳波にも変化が。 落ち着いている状態のときに出るα波の中でも、適度なリラックスとスッキリ感をもたらす帯域がよく出るようになり、集中力にもつながります。
深呼吸をリズミカルに何回か繰り返すことで、副交感神経が刺激され、自律神経が整い、セロトニンが生成されやすくなります。セロトニンは、不安やいらだちを抑える作用があると言われ、幸せホルモンとも呼ばれています。
肺の下の方にある肺胞※はふだんは重力で押しつぶされてしまっていますが、浅い呼吸だけでは膨らませることができません。深呼吸をすることで膨らみ、機能を活性化することができます。
※血液中の二酸化炭素を受け入れ、かわりに酸素を送り出している器官。
深呼吸をすると、血管拡張物質が分泌され、血圧が抑えられる効果が期待できます。緊張して、血圧がいつもより高くなりがちな健康診断では、深呼吸で落ち着いてから検査をしてもらうとよいですね。
深く呼吸をすることで肺が大きく膨らみ、腹圧が上がって消化器にもほどよい圧力が。また、心臓も膨らむように引っ張られます。つまり深呼吸により、さまざまな臓器が刺激されて、血液の循環が促されるのです。
より深く息を吸おうとすると、自然と胸が開いて背筋が伸びます。また、吐くときは背中が引っ張られ、お腹は腹筋で押し上げられます。体幹の筋肉を使用するので、姿勢を整えるにもぴったりです。
たとえば長いお寺の階段を上がりきったとき、達成感や爽快感を感じたことはないでしょうか。これは、いつもより深めの呼吸をリズミカルに続けながら上がって行くことで、酸素がカラダ中に届けられるのと同時に、副交感神経が刺激され、幸せホルモンと呼ばれるセロトニンが生成されているからです。
日常の、ちょっとした合間にできる深呼吸。
最初は無理せず、慣れてきたら
少しずつ増やして続けてみましょう!
「吸う」から始めがちな深呼吸。でも肺の中に空気がある状態からでは、それ以上吸い込めません。人間のカラダは、息を吐ききると、自動的に吸うようにできています。まずは息を吐くことから始めてみましょう。
口から空気を吸うと、冷たく乾燥した外気も、ホコリも、ウイルスも、ダイレクトに肺に入ってしまいます。でも鼻から吸えば、粘膜や鼻毛などがフィルターとなり、湿気のある優しい空気が入ってきます。呼吸するとき、「吸うのは鼻から」を習慣づけてみましょう。
息を吐くとき、口をすぼめるなどして抵抗を作り、ゆっくり吐くと、呼吸筋や腹筋をしっかり使うことになり、筋トレになります。また、一定の力で持続的に呼吸筋を収縮させることで、その間、体幹を安定させることができます。
基本的に、息は、手を伸ばして広げることで吸いやすくなり、カラダを縮ませることで吐き出しやすくなります。呼吸のリズムにあわせて動作でサポートしてあげると、より自然に、気持ちよく深呼吸できます。
セロトニンは、深呼吸によって刺激され、とくに朝の光で活発化します。1日を心地よく過ごすためにも、酸素がフレッシュに入ってくる朝に深呼吸を取り入れるのがオススメ。朝に弱くてぼーっとしがち、という人は試してみて。
深呼吸は子どもから高齢者まで、どの年代でもでき、効果を実感できる健康法です。とくに加齢とともにカラダを動かすことが少なくなると、呼吸も浅くなりがちなので、深呼吸を積極的に日課に取り入れてみてください。
家にいる時間が長くなり、椅子にずっと座っていると、知らないうちにカラダが縮こまってしまい、自然と呼吸が浅くなりがちです。また、マスクをしていると、取り込める酸素の量がいつもより少なくなっているかもしれません。ソーシャルディスタンスが保てる空気のよいところで、意識的に背筋を伸ばして深呼吸をし、酸素をカラダに取り入れるように心がけましょう。
人には他の人の情動(一時的で急激な喜びや悲しみの感情)を共有する機能があります。
深呼吸も親しい人といっしょに行えば、リフレッシュ感やリラックス感がみんなに伝わって効果が増すかもしれませんね。
さあ今年は、みんなで深呼吸!毎日のくらしに取り入れて、健やかな1年を過ごしましょう!
※深呼吸を行う際は、人との距離に十分ご配慮ください。
金沢大学大学院 教育学研究科修士課程修了。東京都立大学理学部助手、同大学院理学研究科助教授を経て現在に至る。1997年から東邦大学医学部客員講師を兼任。2002年から2003年までスタンフォード大学ナルコレプシーセンター客員助教授として、覚醒反応の脳内神経機構に関する研究に従事。著書に『呼吸のしくみ』(ナツメ社)、『脳と体がよみがえる! リズム深呼吸』(山と溪谷社)ほか。