暮らし百景アーカイブ160

時を、つむぐ。 今年40歳の節目に、自分にご褒美でもないけれど記念になるものをと思い立って、腕時計がいいなと決めた。 通勤で商店街を抜けるときに、渋い雰囲気が気になっていた時計屋。その年季の入った扉をゆっくりあける。 寡黙に時計を磨いていた店主に声をかけると、相好を崩して、ウチは先代からゼンマイの機械式だけを扱っていましてねと話し始めた。「いつか自分がこの世を去るときがきて、そのあと時計だけがずっと動いているのは寂しいじゃないですか。いっしょに動いて、止まってくれる、僕はね、それが時計だと思うんですよ」時計は時間を指し示す道具くらいに思っていた僕は、ハッとさせられた。 「これ、いいと思いますよ。ちゃんとメンテナンスすれば百年使えます」ショーケースから1本取り出し、リューズを巻いてみますか?と手渡された。ジリリ、ジリリ。ゼンマイの手ごたえが心地よい。白い文字盤をシルバーの秒針がなめらかに回りはじめた。 これまでの40年間を祝して!と探しにきたけれど、この先の10年、20年のものでもあると気づいたら、ずっと使い続けられるこの時計がふさわしいのかも、と思えた。 そうだ。いま4歳の息子が就職だとか結婚だとか、人生の節目を迎えたときに譲るのも悪くない。顔を上げると、気持ちを読み取ったように店主がそっとほほ笑んだ。

時を、つむぐ。 今年40歳の節目に、自分にご褒美でもないけれど記念になるものをと思い立って、腕時計がいいなと決めた。 通勤で商店街を抜けるときに、渋い雰囲気が気になっていた時計屋。その年季の入った扉をゆっくりあける。 寡黙に時計を磨いていた店主に声をかけると、相好を崩して、ウチは先代からゼンマイの機械式だけを扱っていましてねと話し始めた。「いつか自分がこの世を去るときがきて、そのあと時計だけがずっと動いているのは寂しいじゃないですか。いっしょに動いて、止まってくれる、僕はね、それが時計だと思うんですよ」時計は時間を指し示す道具くらいに思っていた僕は、ハッとさせられた。 「これ、いいと思いますよ。ちゃんとメンテナンスすれば百年使えます」ショーケースから1本取り出し、リューズを巻いてみますか?と手渡された。ジリリ、ジリリ。ゼンマイの手ごたえが心地よい。白い文字盤をシルバーの秒針がなめらかに回りはじめた。 これまでの40年間を祝して!と探しにきたけれど、この先の10年、20年のものでもあると気づいたら、ずっと使い続けられるこの時計がふさわしいのかも、と思えた。 そうだ。いま4歳の息子が就職だとか結婚だとか、人生の節目を迎えたときに譲るのも悪くない。顔を上げると、気持ちを読み取ったように店主がそっとほほ笑んだ。

時を、つむぐ。 今年40歳の節目に、自分にご褒美でもないけれど記念になるものをと思い立って、腕時計がいいなと決めた。 通勤で商店街を抜けるときに、渋い雰囲気が気になっていた時計屋。その年季の入った扉をゆっくりあける。 寡黙に時計を磨いていた店主に声をかけると、相好を崩して、ウチは先代からゼンマイの機械式だけを扱っていましてねと話し始めた。「いつか自分がこの世を去るときがきて、そのあと時計だけがずっと動いているのは寂しいじゃないですか。いっしょに動いて、止まってくれる、僕はね、それが時計だと思うんですよ」時計は時間を指し示す道具くらいに思っていた僕は、ハッとさせられた。 「これ、いいと思いますよ。ちゃんとメンテナンスすれば百年使えます」ショーケースから1本取り出し、リューズを巻いてみますか?と手渡された。ジリリ、ジリリ。ゼンマイの手ごたえが心地よい。白い文字盤をシルバーの秒針がなめらかに回りはじめた。 これまでの40年間を祝して!と探しにきたけれど、この先の10年、20年のものでもあると気づいたら、ずっと使い続けられるこの時計がふさわしいのかも、と思えた。 そうだ。いま4歳の息子が就職だとか結婚だとか、人生の節目を迎えたときに譲るのも悪くない。顔を上げると、気持ちを読み取ったように店主がそっとほほ笑んだ。

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