暮らし百景アーカイブ156

母さんの引っ越し。たんすには年季の入った服がぎっしりつまっている。埃のにおいがする。「母さん、これ。最後に着たの、いつ?」「これ…気に入ってたのよ。それに、高かったし。とっておくわ」区画整理でこの春、実家がなくなる。母は一人、小さなアパートへ引っ越すことになった。実家の片づけがいかに大変か、話では聞いていたのだが。モノの多さには案の定、驚かされた。出るわ、出るわ。押入れには存在すら忘れられていたモノ達。でも捨てない。なんだかんだで捨てようとしない。そう、何より驚いたのは、母の頑固さだ。こんなモノになんでこだわる?「母さん。いい加減にしてっ!」つい、大声が出た。母は黙った。もう、やってらんない。かつての自分の部屋に戻ると、時が止まったままの学習机に、蛍光灯の光をうけ、うっすら雑巾の拭き跡があるのに気づいた。私が実家を出て十数年、変わらず母はこの部屋の掃除をしてくれていたのだ。きちんと想像しようとした。この家がなくなること。これまで守り続けた暮らしが変わること。目の前の「モノ」にとらわれていたのは私の方だった。母の気持ちを置き去りにしていた。言い過ぎたこと、あやまらなくちゃ。母さんの好きな濃いめのお茶を淹れて。すこしの思い出話と、そして、これからのことを一緒に話そう。

母さんの引っ越し。たんすには年季の入った服がぎっしりつまっている。埃のにおいがする。「母さん、これ。最後に着たの、いつ?」「これ…気に入ってたのよ。それに、高かったし。とっておくわ」区画整理でこの春、実家がなくなる。母は一人、小さなアパートへ引っ越すことになった。実家の片づけがいかに大変か、話では聞いていたのだが。モノの多さには案の定、驚かされた。出るわ、出るわ。押入れには存在すら忘れられていたモノ達。でも捨てない。なんだかんだで捨てようとしない。そう、何より驚いたのは、母の頑固さだ。こんなモノになんでこだわる?「母さん。いい加減にしてっ!」つい、大声が出た。母は黙った。もう、やってらんない。かつての自分の部屋に戻ると、時が止まったままの学習机に、蛍光灯の光をうけ、うっすら雑巾の拭き跡があるのに気づいた。私が実家を出て十数年、変わらず母はこの部屋の掃除をしてくれていたのだ。きちんと想像しようとした。この家がなくなること。これまで守り続けた暮らしが変わること。目の前の「モノ」にとらわれていたのは私の方だった。母の気持ちを置き去りにしていた。言い過ぎたこと、あやまらなくちゃ。母さんの好きな濃いめのお茶を淹れて。すこしの思い出話と、そして、これからのことを一緒に話そう。

母さんの引っ越し。たんすには年季の入った服がぎっしりつまっている。埃のにおいがする。「母さん、これ。最後に着たの、いつ?」「これ…気に入ってたのよ。それに、高かったし。とっておくわ」区画整理でこの春、実家がなくなる。母は一人、小さなアパートへ引っ越すことになった。実家の片づけがいかに大変か、話では聞いていたのだが。モノの多さには案の定、驚かされた。出るわ、出るわ。押入れには存在すら忘れられていたモノ達。でも捨てない。なんだかんだで捨てようとしない。そう、何より驚いたのは、母の頑固さだ。こんなモノになんでこだわる?「母さん。いい加減にしてっ!」つい、大声が出た。母は黙った。もう、やってらんない。かつての自分の部屋に戻ると、時が止まったままの学習机に、蛍光灯の光をうけ、うっすら雑巾の拭き跡があるのに気づいた。私が実家を出て十数年、変わらず母はこの部屋の掃除をしてくれていたのだ。きちんと想像しようとした。この家がなくなること。これまで守り続けた暮らしが変わること。目の前の「モノ」にとらわれていたのは私の方だった。母の気持ちを置き去りにしていた。言い過ぎたこと、あやまらなくちゃ。母さんの好きな濃いめのお茶を淹れて。すこしの思い出話と、そして、これからのことを一緒に話そう。

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