暮らし百景アーカイブ150

もしも傘を。もしもあのとき。そう思い返すこと は人生で誰しもひとつやふたつある。 それは、後悔だったり、安堵だったり、 偶然の出会いだったり。  あの日。私は駅で友人を待っていた。 一時間たっても現れる気配がない。当 時は携帯電話もなく、友人宅に電話す ると「やだ、あの展覧会は来週でしょ。」 私が約束を勘違いしていたのだ。  このまま帰るのは悔しい。たしかあ の美術館はカフェも併設されていたは ず。なにより、こんないいお天気。私 は散歩もかねて向かった。  ところが晴天から一転、きまぐれな 空が雨雲をつれてきた。美術館につく 頃には本降り。さらに門扉には「喫茶 ガーデン臨時休業」の貼り紙。そのと き背後から「あれ、来週から?まいっ たなあ」と男性の声がした。大きな体 格には不釣り合いな折り畳み傘にその 身を押し込めている。私に気づくと「よ ろしければ」と傘を差し出し、笑って 見せた。聞けば、出張の合間にこの陶 芸家の展覧会があると知って足を運ん だのだという。 「とても買える代物じゃないけど、やっ ぱりいいですよね」そう傍らで話す 彼の右肩は濡れていた。以来、趣味仲 間としての数年と、たくさんのもしも ※「もしも」の上に「・」 を潜り抜けて、私たちは夫婦となり、 娘を持つ親となった。  こんなことを思い出すのは、この突 然の雨のせいかもしれない。 (あの子、傘を持っていったかしら。) ふふ。彼女にも起こるかもしれない もしもを想像しながら、洗濯物を取り 込んだ。

もしも傘を。もしもあのとき。そう思い返すこと は人生で誰しもひとつやふたつある。 それは、後悔だったり、安堵だったり、 偶然の出会いだったり。  あの日。私は駅で友人を待っていた。 一時間たっても現れる気配がない。当 時は携帯電話もなく、友人宅に電話す ると「やだ、あの展覧会は来週でしょ。」 私が約束を勘違いしていたのだ。  このまま帰るのは悔しい。たしかあ の美術館はカフェも併設されていたは ず。なにより、こんないいお天気。私 は散歩もかねて向かった。  ところが晴天から一転、きまぐれな 空が雨雲をつれてきた。美術館につく 頃には本降り。さらに門扉には「喫茶 ガーデン臨時休業」の貼り紙。そのと き背後から「あれ、来週から?まいっ たなあ」と男性の声がした。大きな体 格には不釣り合いな折り畳み傘にその 身を押し込めている。私に気づくと「よ ろしければ」と傘を差し出し、笑って 見せた。聞けば、出張の合間にこの陶 芸家の展覧会があると知って足を運ん だのだという。 「とても買える代物じゃないけど、やっ ぱりいいですよね」そう傍らで話す 彼の右肩は濡れていた。以来、趣味仲 間としての数年と、たくさんのもしも ※「もしも」の上に「・」 を潜り抜けて、私たちは夫婦となり、 娘を持つ親となった。  こんなことを思い出すのは、この突 然の雨のせいかもしれない。 (あの子、傘を持っていったかしら。) ふふ。彼女にも起こるかもしれない もしもを想像しながら、洗濯物を取り 込んだ。

もしも傘を。もしもあのとき。そう思い返すこと は人生で誰しもひとつやふたつある。 それは、後悔だったり、安堵だったり、 偶然の出会いだったり。  あの日。私は駅で友人を待っていた。 一時間たっても現れる気配がない。当 時は携帯電話もなく、友人宅に電話す ると「やだ、あの展覧会は来週でしょ。」 私が約束を勘違いしていたのだ。  このまま帰るのは悔しい。たしかあ の美術館はカフェも併設されていたは ず。なにより、こんないいお天気。私 は散歩もかねて向かった。  ところが晴天から一転、きまぐれな 空が雨雲をつれてきた。美術館につく 頃には本降り。さらに門扉には「喫茶 ガーデン臨時休業」の貼り紙。そのと き背後から「あれ、来週から?まいっ たなあ」と男性の声がした。大きな体 格には不釣り合いな折り畳み傘にその 身を押し込めている。私に気づくと「よ ろしければ」と傘を差し出し、笑って 見せた。聞けば、出張の合間にこの陶 芸家の展覧会があると知って足を運ん だのだという。 「とても買える代物じゃないけど、やっ ぱりいいですよね」そう傍らで話す 彼の右肩は濡れていた。以来、趣味仲 間としての数年と、たくさんのもしも ※「もしも」の上に「・」 を潜り抜けて、私たちは夫婦となり、 娘を持つ親となった。  こんなことを思い出すのは、この突 然の雨のせいかもしれない。 (あの子、傘を持っていったかしら。) ふふ。彼女にも起こるかもしれない もしもを想像しながら、洗濯物を取り 込んだ。

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