暮らし百景アーカイブ148

傍らで微笑む。踏切を渡り、急な坂道を腕を振って登る。コンビニから出てきたバイトの子は、昨日と同じ若者だ。ダイエットのため、夜の街を歩き始めて一月経つ。体重はいっこうに減らないが考え事には好適だ。部下からの込み入った相談、実家で一人暮らしの母の今後。この歳になると悩みも多い。丘の頂の辻に来ると、立ち止まり手を合わせた。「みんなが健康でありますように」小さなお地蔵様に祈ることも習慣になっている。信心深いわけではない。が、赤いよだれかけを付けた像には、絶えず花が手向けられていて、何か素通りしては申し訳ないような風情があった。あたりは昭和の後半に開けた住宅街だ。まだ一帯が田畑だったころから、同じ場所で見守っているわけだ。「こんばんは。ご近所ですか?」不意に声がして驚く。私より少し年下の女性がニコニコと笑っている。手には、コスモスの花を抱えている。「僕は二丁目の方です」「庭のコスモスがたくさん咲いたから」女性は慣れた手つきで像の脇の花を差し替えた。もう百年もの昔から、こんな光景がここで繰り返されてきたのだろう。ひとりひとりの暮らしは移ろいやすいからこそ、変わらぬ像の微笑みが温かい。目下の悩みに答えが出たわけではないけれど。ふっと心が軽くなった。まあ、明日も一日頑張ってみるかな。私は、大股で坂を下っていった。

傍らで微笑む。踏切を渡り、急な坂道を腕を振って登る。コンビニから出てきたバイトの子は、昨日と同じ若者だ。ダイエットのため、夜の街を歩き始めて一月経つ。体重はいっこうに減らないが考え事には好適だ。部下からの込み入った相談、実家で一人暮らしの母の今後。この歳になると悩みも多い。丘の頂の辻に来ると、立ち止まり手を合わせた。「みんなが健康でありますように」小さなお地蔵様に祈ることも習慣になっている。信心深いわけではない。が、赤いよだれかけを付けた像には、絶えず花が手向けられていて、何か素通りしては申し訳ないような風情があった。あたりは昭和の後半に開けた住宅街だ。まだ一帯が田畑だったころから、同じ場所で見守っているわけだ。「こんばんは。ご近所ですか?」不意に声がして驚く。私より少し年下の女性がニコニコと笑っている。手には、コスモスの花を抱えている。「僕は二丁目の方です」「庭のコスモスがたくさん咲いたから」女性は慣れた手つきで像の脇の花を差し替えた。もう百年もの昔から、こんな光景がここで繰り返されてきたのだろう。ひとりひとりの暮らしは移ろいやすいからこそ、変わらぬ像の微笑みが温かい。目下の悩みに答えが出たわけではないけれど。ふっと心が軽くなった。まあ、明日も一日頑張ってみるかな。私は、大股で坂を下っていった。

傍らで微笑む。踏切を渡り、急な坂道を腕を振って登る。コンビニから出てきたバイトの子は、昨日と同じ若者だ。ダイエットのため、夜の街を歩き始めて一月経つ。体重はいっこうに減らないが考え事には好適だ。部下からの込み入った相談、実家で一人暮らしの母の今後。この歳になると悩みも多い。丘の頂の辻に来ると、立ち止まり手を合わせた。「みんなが健康でありますように」小さなお地蔵様に祈ることも習慣になっている。信心深いわけではない。が、赤いよだれかけを付けた像には、絶えず花が手向けられていて、何か素通りしては申し訳ないような風情があった。あたりは昭和の後半に開けた住宅街だ。まだ一帯が田畑だったころから、同じ場所で見守っているわけだ。「こんばんは。ご近所ですか?」不意に声がして驚く。私より少し年下の女性がニコニコと笑っている。手には、コスモスの花を抱えている。「僕は二丁目の方です」「庭のコスモスがたくさん咲いたから」女性は慣れた手つきで像の脇の花を差し替えた。もう百年もの昔から、こんな光景がここで繰り返されてきたのだろう。ひとりひとりの暮らしは移ろいやすいからこそ、変わらぬ像の微笑みが温かい。目下の悩みに答えが出たわけではないけれど。ふっと心が軽くなった。まあ、明日も一日頑張ってみるかな。私は、大股で坂を下っていった。

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