暮らし百景アーカイブ142

九十四才、自分史を書く。まぶしいくらいに晴れた春の午後、待ちに待った50冊の本が届いた。祖母の自分史ができ上がったのだ。書いてみない?と持ち掛けたのは私だ。きっかけは祖母がぽつりともらした昔話だった。「結婚するまで東京の丸の内で働いていたの。よく銀座にお昼に行ったわ」え?戦前の丸の内でモダンガール?俄然興味がわいた。私に書けるかしら、と初めは尻込みしていた祖母。自費出版専門の出版社に依頼したところ、女性編集者が会いに来てくれた。「アイさんの人生、読みたいです」眼鏡の奥のやさしい目に励まされて、祖母は九十四年の人生を綴り始めた。とりわけ驚いたのは結婚のくだりだ。何人もの求婚者の中から、祖父でなくちゃ嫌、と選んだというではないか。生まれてすぐの娘が高熱を出しガタガタ震え出した時は無我夢中で夜通し裸で抱いて温めたという。物静かな祖母からは想像のできない一面だった。書かなければ、祖母の胸だけに秘められていた想いや大切な日々。祖母の自分史は家族へのラブレターだった。「ああ、これが私の本!書いてよかったわ。ありがとう」喜ぶ祖母の横顔を眺めながら、そっとつぶやいた。ううん、私のほうこそ、書いてくれてありがとう。

九十四才、自分史を書く。まぶしいくらいに晴れた春の午後、待ちに待った50冊の本が届いた。祖母の自分史ができ上がったのだ。書いてみない?と持ち掛けたのは私だ。きっかけは祖母がぽつりともらした昔話だった。「結婚するまで東京の丸の内で働いていたの。よく銀座にお昼に行ったわ」え?戦前の丸の内でモダンガール?俄然興味がわいた。私に書けるかしら、と初めは尻込みしていた祖母。自費出版専門の出版社に依頼したところ、女性編集者が会いに来てくれた。「アイさんの人生、読みたいです」眼鏡の奥のやさしい目に励まされて、祖母は九十四年の人生を綴り始めた。とりわけ驚いたのは結婚のくだりだ。何人もの求婚者の中から、祖父でなくちゃ嫌、と選んだというではないか。生まれてすぐの娘が高熱を出しガタガタ震え出した時は無我夢中で夜通し裸で抱いて温めたという。物静かな祖母からは想像のできない一面だった。書かなければ、祖母の胸だけに秘められていた想いや大切な日々。祖母の自分史は家族へのラブレターだった。「ああ、これが私の本!書いてよかったわ。ありがとう」喜ぶ祖母の横顔を眺めながら、そっとつぶやいた。ううん、私のほうこそ、書いてくれてありがとう。

九十四才、自分史を書く。まぶしいくらいに晴れた春の午後、待ちに待った50冊の本が届いた。祖母の自分史ができ上がったのだ。書いてみない?と持ち掛けたのは私だ。きっかけは祖母がぽつりともらした昔話だった。「結婚するまで東京の丸の内で働いていたの。よく銀座にお昼に行ったわ」え?戦前の丸の内でモダンガール?俄然興味がわいた。私に書けるかしら、と初めは尻込みしていた祖母。自費出版専門の出版社に依頼したところ、女性編集者が会いに来てくれた。「アイさんの人生、読みたいです」眼鏡の奥のやさしい目に励まされて、祖母は九十四年の人生を綴り始めた。とりわけ驚いたのは結婚のくだりだ。何人もの求婚者の中から、祖父でなくちゃ嫌、と選んだというではないか。生まれてすぐの娘が高熱を出しガタガタ震え出した時は無我夢中で夜通し裸で抱いて温めたという。物静かな祖母からは想像のできない一面だった。書かなければ、祖母の胸だけに秘められていた想いや大切な日々。祖母の自分史は家族へのラブレターだった。「ああ、これが私の本!書いてよかったわ。ありがとう」喜ぶ祖母の横顔を眺めながら、そっとつぶやいた。ううん、私のほうこそ、書いてくれてありがとう。

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