暮らし百景アーカイブ135

おあずけの抱擁(ハグ)。しとしと、しとしと……。送り当番が私の日に限って、雨なのは気のせいだろうか。どうしても濡れるし、タオルや着替えで荷物も増える。保育園はだっこで行こう、と何度言っても、智也は「じぶんで!」「あるく!」と聞かなかった。智也に先を行かせ、小さな水色のかさについて歩く。水たまりのたびに立ち止まっては、覗き込んだり、長靴で踏み入ったり。ああ、このペースじゃ遅刻しちゃう。「ママー!いいにおい!」水色のかさが、勢いよく翻る。と同時に、うっとりするような甘い香りが鼻をくすぐった。数メートル先の植え込みの、つややかな緑の葉の間から覗く、純白の花。「くちなしの香りよ。ほら、あそこ」「くち、なし?」智也がケラケラッと笑い声をあげ、かけていく。一歩近づくほど、香りはますます甘美さを増して、鼻腔に押し寄せてくる。雨しずくをまとった花びらは、今、この世に生まれたばかりかと思わせるほどの清冽な白だ。「このお花、ママにあげたいな」智也がまっすぐ私を見上げて言った。ぎゅっと抱きしめたかったけれど、私の両手は、かさと荷物でふさがっていた。

おあずけの抱擁(ハグ)。しとしと、しとしと……。送り当番が私の日に限って、雨なのは気のせいだろうか。どうしても濡れるし、タオルや着替えで荷物も増える。保育園はだっこで行こう、と何度言っても、智也は「じぶんで!」「あるく!」と聞かなかった。智也に先を行かせ、小さな水色のかさについて歩く。水たまりのたびに立ち止まっては、覗き込んだり、長靴で踏み入ったり。ああ、このペースじゃ遅刻しちゃう。「ママー!いいにおい!」水色のかさが、勢いよく翻る。と同時に、うっとりするような甘い香りが鼻をくすぐった。数メートル先の植え込みの、つややかな緑の葉の間から覗く、純白の花。「くちなしの香りよ。ほら、あそこ」「くち、なし?」智也がケラケラッと笑い声をあげ、かけていく。一歩近づくほど、香りはますます甘美さを増して、鼻腔に押し寄せてくる。雨しずくをまとった花びらは、今、この世に生まれたばかりかと思わせるほどの清冽な白だ。「このお花、ママにあげたいな」智也がまっすぐ私を見上げて言った。ぎゅっと抱きしめたかったけれど、私の両手は、かさと荷物でふさがっていた。

おあずけの抱擁(ハグ)。しとしと、しとしと……。送り当番が私の日に限って、雨なのは気のせいだろうか。どうしても濡れるし、タオルや着替えで荷物も増える。保育園はだっこで行こう、と何度言っても、智也は「じぶんで!」「あるく!」と聞かなかった。智也に先を行かせ、小さな水色のかさについて歩く。水たまりのたびに立ち止まっては、覗き込んだり、長靴で踏み入ったり。ああ、このペースじゃ遅刻しちゃう。「ママー!いいにおい!」水色のかさが、勢いよく翻る。と同時に、うっとりするような甘い香りが鼻をくすぐった。数メートル先の植え込みの、つややかな緑の葉の間から覗く、純白の花。「くちなしの香りよ。ほら、あそこ」「くち、なし?」智也がケラケラッと笑い声をあげ、かけていく。一歩近づくほど、香りはますます甘美さを増して、鼻腔に押し寄せてくる。雨しずくをまとった花びらは、今、この世に生まれたばかりかと思わせるほどの清冽な白だ。「このお花、ママにあげたいな」智也がまっすぐ私を見上げて言った。ぎゅっと抱きしめたかったけれど、私の両手は、かさと荷物でふさがっていた。

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