暮らし百景アーカイブ129

キャット・イヤー。大そうじ三日め。出窓のロールスクリーンの裏側に、びっしりついた黒い毛を発見した時、涙が手の甲に落ちた。そこは、クロの定位置。私はこの夏、愛猫を亡くした。まだ目も開かない捨てネコを、思わず家に連れ帰ったのは十六年前。赤ちゃんネコはまたたく間に立派なおとなになり、恰幅のいい中年ネコになり、おじいさんネコになった。ドッグイヤー。人間の一年が、犬には七年にも当たる。本来はITの急速な進化をたとえる言葉らしいが、ネコも然り。そして私もまた、クロと一緒に人生最大の激動期を過ごしたと思う。結婚し、勤めをやめ、長男が生まれ、次男が生まれ、その間に三回の引越し。ひとり(と一匹)暮らしから、愛情の対象がひとり増え、ふたり増え、クロにさみしい思いをさせたかも知れない。家につくというネコに引越しは負担だったかも知れない。もっと気をつけてあげてたら、もっと長生きできたかも‥‥。秋が来てもまだクロの不在に慣れず、気の抜けたようだった私に、次男が言ったっけ。「先生が言ってたけど、ネコと人間の時計は違うからしかたないんだって。でも、人間の時計はゆっくり進むから、悲しいことも忘れられるんだって」長男は、クロのお皿とトイレを処分しようとした私を止めて、こう提案した。「春になったら新しいネコを飼おうよ。ほんとはすぐほしいけど、まだあいつに悪いような気がするから」大そうじも終わった。庭のクロのお墓に花を供えた。春になったら新顔に挨拶させるよ。二〇一七年が、ネコのように足音もなく過ぎ去ろうとしている。

キャット・イヤー。大そうじ三日め。出窓のロールスクリーンの裏側に、びっしりついた黒い毛を発見した時、涙が手の甲に落ちた。そこは、クロの定位置。私はこの夏、愛猫を亡くした。まだ目も開かない捨てネコを、思わず家に連れ帰ったのは十六年前。赤ちゃんネコはまたたく間に立派なおとなになり、恰幅のいい中年ネコになり、おじいさんネコになった。ドッグイヤー。人間の一年が、犬には七年にも当たる。本来はITの急速な進化をたとえる言葉らしいが、ネコも然り。そして私もまた、クロと一緒に人生最大の激動期を過ごしたと思う。結婚し、勤めをやめ、長男が生まれ、次男が生まれ、その間に三回の引越し。ひとり(と一匹)暮らしから、愛情の対象がひとり増え、ふたり増え、クロにさみしい思いをさせたかも知れない。家につくというネコに引越しは負担だったかも知れない。もっと気をつけてあげてたら、もっと長生きできたかも‥‥。秋が来てもまだクロの不在に慣れず、気の抜けたようだった私に、次男が言ったっけ。「先生が言ってたけど、ネコと人間の時計は違うからしかたないんだって。でも、人間の時計はゆっくり進むから、悲しいことも忘れられるんだって」長男は、クロのお皿とトイレを処分しようとした私を止めて、こう提案した。「春になったら新しいネコを飼おうよ。ほんとはすぐほしいけど、まだあいつに悪いような気がするから」大そうじも終わった。庭のクロのお墓に花を供えた。春になったら新顔に挨拶させるよ。二〇一七年が、ネコのように足音もなく過ぎ去ろうとしている。

キャット・イヤー。大そうじ三日め。出窓のロールスクリーンの裏側に、びっしりついた黒い毛を発見した時、涙が手の甲に落ちた。そこは、クロの定位置。私はこの夏、愛猫を亡くした。まだ目も開かない捨てネコを、思わず家に連れ帰ったのは十六年前。赤ちゃんネコはまたたく間に立派なおとなになり、恰幅のいい中年ネコになり、おじいさんネコになった。ドッグイヤー。人間の一年が、犬には七年にも当たる。本来はITの急速な進化をたとえる言葉らしいが、ネコも然り。そして私もまた、クロと一緒に人生最大の激動期を過ごしたと思う。結婚し、勤めをやめ、長男が生まれ、次男が生まれ、その間に三回の引越し。ひとり(と一匹)暮らしから、愛情の対象がひとり増え、ふたり増え、クロにさみしい思いをさせたかも知れない。家につくというネコに引越しは負担だったかも知れない。もっと気をつけてあげてたら、もっと長生きできたかも‥‥。秋が来てもまだクロの不在に慣れず、気の抜けたようだった私に、次男が言ったっけ。「先生が言ってたけど、ネコと人間の時計は違うからしかたないんだって。でも、人間の時計はゆっくり進むから、悲しいことも忘れられるんだって」長男は、クロのお皿とトイレを処分しようとした私を止めて、こう提案した。「春になったら新しいネコを飼おうよ。ほんとはすぐほしいけど、まだあいつに悪いような気がするから」大そうじも終わった。庭のクロのお墓に花を供えた。春になったら新顔に挨拶させるよ。二〇一七年が、ネコのように足音もなく過ぎ去ろうとしている。

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