暮らし百景アーカイブ125

箱庭に咲いた初夏。朝、目が覚めると、真っ先にベランダへ向かう。ここ数日、新しい日課ができた。花の水遣りだ。いつもなら、妻が世話をするのだが、用事で実家へ帰っている。田舎の祖父が入院したのだ。じょうろを傾けながら、思う。我がベランダながら、今まで、まじまじと観察する機会は無かった。——この、青やらピンク色の菊のような花は、何だっけ。確か前に聞いたのだが。「せっかく手入れしても、あなたは張り合いがないわ」妻の口癖が、よみがえってくる。結婚して三回目の五月になる。見渡せば、花好きの妻のお陰で、ささやかな「庭」も少しずつ彩りを増している。そういえば、引っ越した当時、ベランダをビアガーデンみたいにしようと、ふたりでテーブルと椅子を買いに行った。近頃は、ここで語り合うこともなくなってしまった。朝から花を眺めていると、清々しい。妻も、時々褒めてほしかったのだろう。たまに洗濯物を干すくらいで、えらそうな顔をしていてはいけないなあ…。晩に、妻から電話があって、祖父の病状が安定したことを聞いた。「——ところで、ベランダの花がさ、今、きれいだよ」私は切り出した。「気づいたんだ。あれはね、矢車草よ」「そう、それが満開だから、早く帰っておいで。ベランダで花見して飲もう」「わ、久しぶりじゃない」受話器から、弾んだ声が聞こえてきた。

箱庭に咲いた初夏。朝、目が覚めると、真っ先にベランダへ向かう。ここ数日、新しい日課ができた。花の水遣りだ。いつもなら、妻が世話をするのだが、用事で実家へ帰っている。田舎の祖父が入院したのだ。じょうろを傾けながら、思う。我がベランダながら、今まで、まじまじと観察する機会は無かった。——この、青やらピンク色の菊のような花は、何だっけ。確か前に聞いたのだが。「せっかく手入れしても、あなたは張り合いがないわ」妻の口癖が、よみがえってくる。結婚して三回目の五月になる。見渡せば、花好きの妻のお陰で、ささやかな「庭」も少しずつ彩りを増している。そういえば、引っ越した当時、ベランダをビアガーデンみたいにしようと、ふたりでテーブルと椅子を買いに行った。近頃は、ここで語り合うこともなくなってしまった。朝から花を眺めていると、清々しい。妻も、時々褒めてほしかったのだろう。たまに洗濯物を干すくらいで、えらそうな顔をしていてはいけないなあ…。晩に、妻から電話があって、祖父の病状が安定したことを聞いた。「——ところで、ベランダの花がさ、今、きれいだよ」私は切り出した。「気づいたんだ。あれはね、矢車草よ」「そう、それが満開だから、早く帰っておいで。ベランダで花見して飲もう」「わ、久しぶりじゃない」受話器から、弾んだ声が聞こえてきた。

箱庭に咲いた初夏。朝、目が覚めると、真っ先にベランダへ向かう。ここ数日、新しい日課ができた。花の水遣りだ。いつもなら、妻が世話をするのだが、用事で実家へ帰っている。田舎の祖父が入院したのだ。じょうろを傾けながら、思う。我がベランダながら、今まで、まじまじと観察する機会は無かった。——この、青やらピンク色の菊のような花は、何だっけ。確か前に聞いたのだが。「せっかく手入れしても、あなたは張り合いがないわ」妻の口癖が、よみがえってくる。結婚して三回目の五月になる。見渡せば、花好きの妻のお陰で、ささやかな「庭」も少しずつ彩りを増している。そういえば、引っ越した当時、ベランダをビアガーデンみたいにしようと、ふたりでテーブルと椅子を買いに行った。近頃は、ここで語り合うこともなくなってしまった。朝から花を眺めていると、清々しい。妻も、時々褒めてほしかったのだろう。たまに洗濯物を干すくらいで、えらそうな顔をしていてはいけないなあ…。晩に、妻から電話があって、祖父の病状が安定したことを聞いた。「——ところで、ベランダの花がさ、今、きれいだよ」私は切り出した。「気づいたんだ。あれはね、矢車草よ」「そう、それが満開だから、早く帰っておいで。ベランダで花見して飲もう」「わ、久しぶりじゃない」受話器から、弾んだ声が聞こえてきた。

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