暮らし百景アーカイブ122

春、新しいページ。古びたマンションの一室。壁一面の本棚には洋書が並んでいる。異国の香りのする小宇宙。小さな頃から、好きな場所だ。私が、雑誌社に勤めるようになったのも、ここで翻訳の仕事をしている叔母の影響が大きい。珈琲をいれて、キッチンから戻ってきた叔母が切り出した。「で、何があったの? みかんのお裾分けだけで来たんじゃないでしょ」就職のときも、子どもを授かったときも、ここに来て話を聞いてもらった。私の心模様は、彼女にはとっくにお見通しのようだ。春の異動の内示があった。私は、新しい雑誌を任されるらしい。発行部数はささやかだが、輸入雑貨の専門誌はずっと手がけたかった分野。けれど、保育園の送り迎えをしながら、責任あるポジションをこなせるだろうか。夫や子どもに負担をかけるのではないかと、返事を保留している。私の話を聞いていた叔母は、席を立って一冊の本を差し出した。天地と小口の紙が少し日焼けしている。「この本を訳したとき、上の子が反抗期だったわ。この本も、どの本も、みんな当時のことを思い出す。苦労ばっかりだったけど!」笑ってふりかえる叔母のように、私も乗り越えられるだろうか。自信は無い。でも、私も自分の仕事の証しを残したいと思う。背中を押されたような気持で、私は、珈琲を飲みほした。

春、新しいページ。古びたマンションの一室。壁一面の本棚には洋書が並んでいる。異国の香りのする小宇宙。小さな頃から、好きな場所だ。私が、雑誌社に勤めるようになったのも、ここで翻訳の仕事をしている叔母の影響が大きい。珈琲をいれて、キッチンから戻ってきた叔母が切り出した。「で、何があったの? みかんのお裾分けだけで来たんじゃないでしょ」就職のときも、子どもを授かったときも、ここに来て話を聞いてもらった。私の心模様は、彼女にはとっくにお見通しのようだ。春の異動の内示があった。私は、新しい雑誌を任されるらしい。発行部数はささやかだが、輸入雑貨の専門誌はずっと手がけたかった分野。けれど、保育園の送り迎えをしながら、責任あるポジションをこなせるだろうか。夫や子どもに負担をかけるのではないかと、返事を保留している。私の話を聞いていた叔母は、席を立って一冊の本を差し出した。天地と小口の紙が少し日焼けしている。「この本を訳したとき、上の子が反抗期だったわ。この本も、どの本も、みんな当時のことを思い出す。苦労ばっかりだったけど!」笑ってふりかえる叔母のように、私も乗り越えられるだろうか。自信は無い。でも、私も自分の仕事の証しを残したいと思う。背中を押されたような気持で、私は、珈琲を飲みほした。

春、新しいページ。古びたマンションの一室。壁一面の本棚には洋書が並んでいる。異国の香りのする小宇宙。小さな頃から、好きな場所だ。私が、雑誌社に勤めるようになったのも、ここで翻訳の仕事をしている叔母の影響が大きい。珈琲をいれて、キッチンから戻ってきた叔母が切り出した。「で、何があったの? みかんのお裾分けだけで来たんじゃないでしょ」就職のときも、子どもを授かったときも、ここに来て話を聞いてもらった。私の心模様は、彼女にはとっくにお見通しのようだ。春の異動の内示があった。私は、新しい雑誌を任されるらしい。発行部数はささやかだが、輸入雑貨の専門誌はずっと手がけたかった分野。けれど、保育園の送り迎えをしながら、責任あるポジションをこなせるだろうか。夫や子どもに負担をかけるのではないかと、返事を保留している。私の話を聞いていた叔母は、席を立って一冊の本を差し出した。天地と小口の紙が少し日焼けしている。「この本を訳したとき、上の子が反抗期だったわ。この本も、どの本も、みんな当時のことを思い出す。苦労ばっかりだったけど!」笑ってふりかえる叔母のように、私も乗り越えられるだろうか。自信は無い。でも、私も自分の仕事の証しを残したいと思う。背中を押されたような気持で、私は、珈琲を飲みほした。

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