暮らし百景アーカイブ116

夫婦ホタル。「もう夕食は済んだのかしら。」妻が口にするのは、修学旅行にでかけた娘の心配ばかり。少しは夫の心配もしてくれよ、と言いたくなるが。かくいう自分も、相槌を打つ以外はさして話題も見つからず…。中年夫婦ふたりの食卓では、テレビのアナウンサーだけが雄弁だ。娘は、十五才。将来結婚すれば、また妻とふたりになることはわかっていた。が、気づいてみれば現実は、早ければあと五年ほどに迫っている。小さな戸惑いを覚えた矢先、地元の自然公園で「ホタル観賞会」、の新聞記事が目に入った。時計は、まだ七時半。車なら一〇分で着く。妻は最初、「あの子や先生から連絡があるといけないから」と躊躇していたが、「一時間くらいなら」と決めて、公園に向かった。「なんて、やわらかい明り…。ねぇ、あの子が小さい頃、グァムに行ったでしょう。飛行機から見た街の明りを指差して、『ホタル』って言ってたのよ。」やれやれ…。無理にふたりの時間を意識しても、ぎこちないばかりだな。と、思い直したら、自然と言葉がこぼれ出た。「明日の夜はどうする?」「うん、髪染めたいなと思って。また、白いの見えてきたでしょう。」「じゃ、後ろ、手伝うよ。」妻は微笑みながら、私の手を軽く握った。その時、ふたりの前をホタルが二匹。ついて、離れて——。間もなく光は、ひとつになった。

夫婦ホタル。「もう夕食は済んだのかしら。」妻が口にするのは、修学旅行にでかけた娘の心配ばかり。少しは夫の心配もしてくれよ、と言いたくなるが。かくいう自分も、相槌を打つ以外はさして話題も見つからず…。中年夫婦ふたりの食卓では、テレビのアナウンサーだけが雄弁だ。娘は、十五才。将来結婚すれば、また妻とふたりになることはわかっていた。が、気づいてみれば現実は、早ければあと五年ほどに迫っている。小さな戸惑いを覚えた矢先、地元の自然公園で「ホタル観賞会」、の新聞記事が目に入った。時計は、まだ七時半。車なら一〇分で着く。妻は最初、「あの子や先生から連絡があるといけないから」と躊躇していたが、「一時間くらいなら」と決めて、公園に向かった。「なんて、やわらかい明り…。ねぇ、あの子が小さい頃、グァムに行ったでしょう。飛行機から見た街の明りを指差して、『ホタル』って言ってたのよ。」やれやれ…。無理にふたりの時間を意識しても、ぎこちないばかりだな。と、思い直したら、自然と言葉がこぼれ出た。「明日の夜はどうする?」「うん、髪染めたいなと思って。また、白いの見えてきたでしょう。」「じゃ、後ろ、手伝うよ。」妻は微笑みながら、私の手を軽く握った。その時、ふたりの前をホタルが二匹。ついて、離れて——。間もなく光は、ひとつになった。

夫婦ホタル。「もう夕食は済んだのかしら。」妻が口にするのは、修学旅行にでかけた娘の心配ばかり。少しは夫の心配もしてくれよ、と言いたくなるが。かくいう自分も、相槌を打つ以外はさして話題も見つからず…。中年夫婦ふたりの食卓では、テレビのアナウンサーだけが雄弁だ。娘は、十五才。将来結婚すれば、また妻とふたりになることはわかっていた。が、気づいてみれば現実は、早ければあと五年ほどに迫っている。小さな戸惑いを覚えた矢先、地元の自然公園で「ホタル観賞会」、の新聞記事が目に入った。時計は、まだ七時半。車なら一〇分で着く。妻は最初、「あの子や先生から連絡があるといけないから」と躊躇していたが、「一時間くらいなら」と決めて、公園に向かった。「なんて、やわらかい明り…。ねぇ、あの子が小さい頃、グァムに行ったでしょう。飛行機から見た街の明りを指差して、『ホタル』って言ってたのよ。」やれやれ…。無理にふたりの時間を意識しても、ぎこちないばかりだな。と、思い直したら、自然と言葉がこぼれ出た。「明日の夜はどうする?」「うん、髪染めたいなと思って。また、白いの見えてきたでしょう。」「じゃ、後ろ、手伝うよ。」妻は微笑みながら、私の手を軽く握った。その時、ふたりの前をホタルが二匹。ついて、離れて——。間もなく光は、ひとつになった。

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