暮らし百景アーカイブ99

母の、処方箋。あれはうかつだった。風邪をひいた。原因は、一昨日の送別会の帰り道。鍋のお供に日本酒を飲んで、ぽかぽかに温まった私は、「夜景を見にいこう!」と、コートも羽織らず、同僚と連れ立って歩いたのだった。ひんやりと冷えた夜の街を、気分よく。熱は、39度。やっとの思いで会社に連絡をすると、鉛のように重い体を、布団にうずめる。リビングからは、せわしなく朝の身支度をする夫と、「ぱぱ、うさぎさんのくつしたがなーい」と、駄々をこねる娘の声。(それは引き出しの三番目。ああ、それより、もうすぐ幼稚園のバスがきちゃう…)そうまどろんでいるうちに、夢を見た。夢の中の私はまだ子どもで、風邪をひいて寝ている。毛布の端から、爛々と瞳を輝かせて。待っているのだ。私が風邪のとき、きまって母が作ってくれる、色鮮やかなフルーツゼリーを。熱くなった喉をつるんと通る冷たい感触。どんなに食欲がなくても、それだけは食べられた。そして、もうひとつ。母がお腹をなでてくれること。眠れないとき、母の丸くて温かな手に触れられると、すーっと眠ってしまうのだ。今にして思えば私にとって母のそれは、何よりも効果的な“魔法のお薬”だったのかもしれない。目が覚めると、夕方。じんわり生温かくなったシーツと、幾分軽い体。ゆるゆるとキッチンに向かい、冷蔵庫を開けると、小さな果肉がごろごろと残る擦りおろしたりんごと「美羽とつくりました」という夫の走り書き。夫が子どものときの“お薬”は、これだったのだろう。口にいれると、甘酸っぱい香りがひろがった。

母の、処方箋。あれはうかつだった。風邪をひいた。原因は、一昨日の送別会の帰り道。鍋のお供に日本酒を飲んで、ぽかぽかに温まった私は、「夜景を見にいこう!」と、コートも羽織らず、同僚と連れ立って歩いたのだった。ひんやりと冷えた夜の街を、気分よく。熱は、39度。やっとの思いで会社に連絡をすると、鉛のように重い体を、布団にうずめる。リビングからは、せわしなく朝の身支度をする夫と、「ぱぱ、うさぎさんのくつしたがなーい」と、駄々をこねる娘の声。(それは引き出しの三番目。ああ、それより、もうすぐ幼稚園のバスがきちゃう…)そうまどろんでいるうちに、夢を見た。夢の中の私はまだ子どもで、風邪をひいて寝ている。毛布の端から、爛々と瞳を輝かせて。待っているのだ。私が風邪のとき、きまって母が作ってくれる、色鮮やかなフルーツゼリーを。熱くなった喉をつるんと通る冷たい感触。どんなに食欲がなくても、それだけは食べられた。そして、もうひとつ。母がお腹をなでてくれること。眠れないとき、母の丸くて温かな手に触れられると、すーっと眠ってしまうのだ。今にして思えば私にとって母のそれは、何よりも効果的な“魔法のお薬”だったのかもしれない。目が覚めると、夕方。じんわり生温かくなったシーツと、幾分軽い体。ゆるゆるとキッチンに向かい、冷蔵庫を開けると、小さな果肉がごろごろと残る擦りおろしたりんごと「美羽とつくりました」という夫の走り書き。夫が子どものときの“お薬”は、これだったのだろう。口にいれると、甘酸っぱい香りがひろがった。

母の、処方箋。あれはうかつだった。風邪をひいた。原因は、一昨日の送別会の帰り道。鍋のお供に日本酒を飲んで、ぽかぽかに温まった私は、「夜景を見にいこう!」と、コートも羽織らず、同僚と連れ立って歩いたのだった。ひんやりと冷えた夜の街を、気分よく。熱は、39度。やっとの思いで会社に連絡をすると、鉛のように重い体を、布団にうずめる。リビングからは、せわしなく朝の身支度をする夫と、「ぱぱ、うさぎさんのくつしたがなーい」と、駄々をこねる娘の声。(それは引き出しの三番目。ああ、それより、もうすぐ幼稚園のバスがきちゃう…)そうまどろんでいるうちに、夢を見た。夢の中の私はまだ子どもで、風邪をひいて寝ている。毛布の端から、爛々と瞳を輝かせて。待っているのだ。私が風邪のとき、きまって母が作ってくれる、色鮮やかなフルーツゼリーを。熱くなった喉をつるんと通る冷たい感触。どんなに食欲がなくても、それだけは食べられた。そして、もうひとつ。母がお腹をなでてくれること。眠れないとき、母の丸くて温かな手に触れられると、すーっと眠ってしまうのだ。今にして思えば私にとって母のそれは、何よりも効果的な“魔法のお薬”だったのかもしれない。目が覚めると、夕方。じんわり生温かくなったシーツと、幾分軽い体。ゆるゆるとキッチンに向かい、冷蔵庫を開けると、小さな果肉がごろごろと残る擦りおろしたりんごと「美羽とつくりました」という夫の走り書き。夫が子どものときの“お薬”は、これだったのだろう。口にいれると、甘酸っぱい香りがひろがった。

image-02-s-02

一覧を見る

ご意見・ご感想をお寄せください

Page Top