暮らし百景アーカイブ90

ふりこの原理。満員電車である。手近なつり革をつかまえる。横に男の頭がある。ヘアスタイルに気をつかっているのか、頭に手をやっては窓ガラスに映る自分を確かめている。眉間にシワなどよせて、昔のアクション映画に出ていた役者に似ている。これはまずいと思った。もう、つり革は放せない。放せば振れて男の頭にぶつかるのは必定である。電車はゆれる、ゆれる。押される。足元を踏ん張って、今やつり革で体をささえているというより、男に当てないように伸びきった手でつり革をつかまえているようなものだ。急ブレーキ。あっ、と思った瞬間、手を放してしまった。「絶体絶命」である。だが、男は平然としている。助かったと思ったその時、眉間にシワをよせたその目がこちらに向いた。と次の瞬間、男の顔がにたっと笑ったのである。はずかしそうに。奇跡というものが世の中にあるとすればまさにそれである。ちっぽけなことだけど、私にとってそれはまぎれもない奇跡であった。天使がこの世にいるとすれば、きっとあんな顔ではないかと思ったりもした。その後その男はなにも無かったかのように窓ガラスをみつめている。私のこころもつり革のようにゆれながら満員電車にゆられている。今度は手すりをしっかりにぎって。

ふりこの原理。満員電車である。手近なつり革をつかまえる。横に男の頭がある。ヘアスタイルに気をつかっているのか、頭に手をやっては窓ガラスに映る自分を確かめている。眉間にシワなどよせて、昔のアクション映画に出ていた役者に似ている。これはまずいと思った。もう、つり革は放せない。放せば振れて男の頭にぶつかるのは必定である。電車はゆれる、ゆれる。押される。足元を踏ん張って、今やつり革で体をささえているというより、男に当てないように伸びきった手でつり革をつかまえているようなものだ。急ブレーキ。あっ、と思った瞬間、手を放してしまった。「絶体絶命」である。だが、男は平然としている。助かったと思ったその時、眉間にシワをよせたその目がこちらに向いた。と次の瞬間、男の顔がにたっと笑ったのである。はずかしそうに。奇跡というものが世の中にあるとすればまさにそれである。ちっぽけなことだけど、私にとってそれはまぎれもない奇跡であった。天使がこの世にいるとすれば、きっとあんな顔ではないかと思ったりもした。その後その男はなにも無かったかのように窓ガラスをみつめている。私のこころもつり革のようにゆれながら満員電車にゆられている。今度は手すりをしっかりにぎって。

ふりこの原理。満員電車である。手近なつり革をつかまえる。横に男の頭がある。ヘアスタイルに気をつかっているのか、頭に手をやっては窓ガラスに映る自分を確かめている。眉間にシワなどよせて、昔のアクション映画に出ていた役者に似ている。これはまずいと思った。もう、つり革は放せない。放せば振れて男の頭にぶつかるのは必定である。電車はゆれる、ゆれる。押される。足元を踏ん張って、今やつり革で体をささえているというより、男に当てないように伸びきった手でつり革をつかまえているようなものだ。急ブレーキ。あっ、と思った瞬間、手を放してしまった。「絶体絶命」である。だが、男は平然としている。助かったと思ったその時、眉間にシワをよせたその目がこちらに向いた。と次の瞬間、男の顔がにたっと笑ったのである。はずかしそうに。奇跡というものが世の中にあるとすればまさにそれである。ちっぽけなことだけど、私にとってそれはまぎれもない奇跡であった。天使がこの世にいるとすれば、きっとあんな顔ではないかと思ったりもした。その後その男はなにも無かったかのように窓ガラスをみつめている。私のこころもつり革のようにゆれながら満員電車にゆられている。今度は手すりをしっかりにぎって。

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