暮らし百景アーカイブ74

妻の帰宅に我思ふ。二、三頁読んでは時計に目をやる。チラリ、チラリ。十一時半か。私はどうにもはかどらぬ読書を切り上げて、洗面所に向かった。今夜は一人だ。妻は卒業後二十年ぶりという高校のクラス会に出かけた。「これとこれをチンして温めて」「うん」「けっこう遅くなるかも。構わない?」「ああ。ゆっくり楽しんでくれば」歯磨きを終えても寝る気にはなれず、何となくテレビをつける。チャンネルを幾つか切り替えて、時刻表示の出ている画面にした。十一時三十七分。「電話くらいしたっていいだろうに」と思わず呟いた時ふと気づいた。これは私が妻に日頃言われていることだ。「仕事で遅くなるのに一々連絡してられないよ」「同僚と一杯やってる時に自分だけ電話なんて」などと反論するのが常だったが、そうか、彼女が求めていたのは連絡そのものよりも、何事も起きてはいないという安心だったのかな。十一時五十八分。ドアを開ける音。「ただいまー、あー楽しかった。ごめん、遅くなっちゃって。何度か電話しようと思ったんだけど、何かしそびれちゃって、ホントごめんね」先に謝られると文句も言いづらい。「ま、無事のご帰還、何よりで」「ほら」、コップの水を手渡しながら、私は心の中で宣誓した。「えー、これからは出来るだけ連絡いたします。出来るだけ」

妻の帰宅に我思ふ。二、三頁読んでは時計に目をやる。チラリ、チラリ。十一時半か。私はどうにもはかどらぬ読書を切り上げて、洗面所に向かった。今夜は一人だ。妻は卒業後二十年ぶりという高校のクラス会に出かけた。「これとこれをチンして温めて」「うん」「けっこう遅くなるかも。構わない?」「ああ。ゆっくり楽しんでくれば」歯磨きを終えても寝る気にはなれず、何となくテレビをつける。チャンネルを幾つか切り替えて、時刻表示の出ている画面にした。十一時三十七分。「電話くらいしたっていいだろうに」と思わず呟いた時ふと気づいた。これは私が妻に日頃言われていることだ。「仕事で遅くなるのに一々連絡してられないよ」「同僚と一杯やってる時に自分だけ電話なんて」などと反論するのが常だったが、そうか、彼女が求めていたのは連絡そのものよりも、何事も起きてはいないという安心だったのかな。十一時五十八分。ドアを開ける音。「ただいまー、あー楽しかった。ごめん、遅くなっちゃって。何度か電話しようと思ったんだけど、何かしそびれちゃって、ホントごめんね」先に謝られると文句も言いづらい。「ま、無事のご帰還、何よりで」「ほら」、コップの水を手渡しながら、私は心の中で宣誓した。「えー、これからは出来るだけ連絡いたします。出来るだけ」

妻の帰宅に我思ふ。二、三頁読んでは時計に目をやる。チラリ、チラリ。十一時半か。私はどうにもはかどらぬ読書を切り上げて、洗面所に向かった。今夜は一人だ。妻は卒業後二十年ぶりという高校のクラス会に出かけた。「これとこれをチンして温めて」「うん」「けっこう遅くなるかも。構わない?」「ああ。ゆっくり楽しんでくれば」歯磨きを終えても寝る気にはなれず、何となくテレビをつける。チャンネルを幾つか切り替えて、時刻表示の出ている画面にした。十一時三十七分。「電話くらいしたっていいだろうに」と思わず呟いた時ふと気づいた。これは私が妻に日頃言われていることだ。「仕事で遅くなるのに一々連絡してられないよ」「同僚と一杯やってる時に自分だけ電話なんて」などと反論するのが常だったが、そうか、彼女が求めていたのは連絡そのものよりも、何事も起きてはいないという安心だったのかな。十一時五十八分。ドアを開ける音。「ただいまー、あー楽しかった。ごめん、遅くなっちゃって。何度か電話しようと思ったんだけど、何かしそびれちゃって、ホントごめんね」先に謝られると文句も言いづらい。「ま、無事のご帰還、何よりで」「ほら」、コップの水を手渡しながら、私は心の中で宣誓した。「えー、これからは出来るだけ連絡いたします。出来るだけ」

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