暮らし百景アーカイブ38

「どんぐりまた見つかるかな、ママ」通園バックをかちゃかちゃ鳴らして、娘は木立ちの中に入っていく。「まだかもね。葉っぱが黄色くなって、落ちてからよ」私は、小さな背中にそう言って、坂道の途中で立ち止まる。郊外でもめずらしくなった雑木林が南向きの斜面に広がっている。どんぐり、ね——。初めてこの町に来た日、どんぐりを拾ったっけ。当時、新婚で夫と新居を探していた。いくつかアパートをまわったひとつが、冬枯れの林の中の坂道をのぼった、メゾネット—今の家—だった。駅からも、スーパーにも遠かったが、二人は林のたたずまいが気に入ってしまった。眼下には、家々のベランダの洗濯物が、陽の光りに白くひるがえっている。好きになれそうな眺めだった。その時、足元の舗道にどんぐりを見つけたのだ。林からこぼれてきたものだろう。「どんぐりの親は何?」「あれ?」「子どもに聞かれたら、答えられないとね」「そっか。僕たち親になるわけだ」私は、未来の子どもと、どんぐりを拾っている光景を想像した。あ、いいな。それで、この町に決めたのだ。「ママ、お花咲いているの。来て来て」娘が私の袖を引っぱる。どんぐりの代わりに“ヒミツ”を見つけたようだ。私たちは、もうすっかりここの景色に溶け込んでいる。淡く思い描いていた暮らしが、少しづつカタチになっているのを感じる。どんぐりの木の名前は調べてある。「ここの林はクヌギとコナラとね…」いつか聞かれたとき、そう答えるのだ。

「どんぐりまた見つかるかな、ママ」通園バックをかちゃかちゃ鳴らして、娘は木立ちの中に入っていく。「まだかもね。葉っぱが黄色くなって、落ちてからよ」私は、小さな背中にそう言って、坂道の途中で立ち止まる。郊外でもめずらしくなった雑木林が南向きの斜面に広がっている。どんぐり、ね——。初めてこの町に来た日、どんぐりを拾ったっけ。当時、新婚で夫と新居を探していた。いくつかアパートをまわったひとつが、冬枯れの林の中の坂道をのぼった、メゾネット—今の家—だった。駅からも、スーパーにも遠かったが、二人は林のたたずまいが気に入ってしまった。眼下には、家々のベランダの洗濯物が、陽の光りに白くひるがえっている。好きになれそうな眺めだった。その時、足元の舗道にどんぐりを見つけたのだ。林からこぼれてきたものだろう。「どんぐりの親は何?」「あれ?」「子どもに聞かれたら、答えられないとね」「そっか。僕たち親になるわけだ」私は、未来の子どもと、どんぐりを拾っている光景を想像した。あ、いいな。それで、この町に決めたのだ。「ママ、お花咲いているの。来て来て」娘が私の袖を引っぱる。どんぐりの代わりに“ヒミツ”を見つけたようだ。私たちは、もうすっかりここの景色に溶け込んでいる。淡く思い描いていた暮らしが、少しづつカタチになっているのを感じる。どんぐりの木の名前は調べてある。「ここの林はクヌギとコナラとね…」いつか聞かれたとき、そう答えるのだ。

「どんぐりまた見つかるかな、ママ」通園バックをかちゃかちゃ鳴らして、娘は木立ちの中に入っていく。「まだかもね。葉っぱが黄色くなって、落ちてからよ」私は、小さな背中にそう言って、坂道の途中で立ち止まる。郊外でもめずらしくなった雑木林が南向きの斜面に広がっている。どんぐり、ね——。初めてこの町に来た日、どんぐりを拾ったっけ。当時、新婚で夫と新居を探していた。いくつかアパートをまわったひとつが、冬枯れの林の中の坂道をのぼった、メゾネット—今の家—だった。駅からも、スーパーにも遠かったが、二人は林のたたずまいが気に入ってしまった。眼下には、家々のベランダの洗濯物が、陽の光りに白くひるがえっている。好きになれそうな眺めだった。その時、足元の舗道にどんぐりを見つけたのだ。林からこぼれてきたものだろう。「どんぐりの親は何?」「あれ?」「子どもに聞かれたら、答えられないとね」「そっか。僕たち親になるわけだ」私は、未来の子どもと、どんぐりを拾っている光景を想像した。あ、いいな。それで、この町に決めたのだ。「ママ、お花咲いているの。来て来て」娘が私の袖を引っぱる。どんぐりの代わりに“ヒミツ”を見つけたようだ。私たちは、もうすっかりここの景色に溶け込んでいる。淡く思い描いていた暮らしが、少しづつカタチになっているのを感じる。どんぐりの木の名前は調べてある。「ここの林はクヌギとコナラとね…」いつか聞かれたとき、そう答えるのだ。

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