暮らし百景アーカイブ30

昼下がりの秘密。日曜の昼下がり。ソファにごろり寝そべって怠惰を楽しんでいる。静かだ。「だらしない恰好して」と口喧しい妻は同窓会だとかで出かけている。静かだ——ウン、ちょっと静か過ぎやしないか。ゆり子はどこだ。休みには、どこかへ連れてけとうるさいあの子は。出かけた気配はないし、家を探してみる。風呂場にいた。洗い場にしゃがみこんで一心不乱になにか洗っている様子。のぞき込んでみると、真っ黒に汚れた、通園バッグというのか、布製の手提げ。何やら模様があるが、それを浴槽ブラシでこすっている。「それじゃ、布が傷んじゃうよ」と声をかけるとなんとも恨めしそうな顔で私を見上げる。バッグを手にとれば、チューリップ畑で蝶と戯れる子ブタのアップリケ。汚れているが、なんとも可愛い。お母さんが作ってくれたと言う。昨日、幼稚園にもっていったら、先生には素敵とほめられ、友達には羨ましがられたという。それを得意がって見せびらかしているうち、水溜まりに落っことしてしまったという次第。「ああ、お母さん、がっかりするぞー」あ、いかん、ますます、娘は泣きそうになる。よし、お父さんが洗ってやろう。「お父さん、お洗濯できるの」不安気に娘がたずねる。だてに何年も独身生活をおくってはいないぞ。まかせなさいと、中性洗剤、柔軟剤、漂白剤を用意し、古ハブラシでアップリケの細かな部分の汚れを落とし始める。娘の眼差しが尊敬をおびた(?)ような気がした。洗って干す。半乾きになったところでアイロンをかけて仕上げる。どうだ。「きれいになったね」と娘がほっとしたように言う。「お母さんには、内緒にしておこうね」「ウン」とそこで、やっと娘が笑った。もうそろそろ、妻も帰ってくるころだ。父と娘の初めての秘密の話——。

昼下がりの秘密。日曜の昼下がり。ソファにごろり寝そべって怠惰を楽しんでいる。静かだ。「だらしない恰好して」と口喧しい妻は同窓会だとかで出かけている。静かだ——ウン、ちょっと静か過ぎやしないか。ゆり子はどこだ。休みには、どこかへ連れてけとうるさいあの子は。出かけた気配はないし、家を探してみる。風呂場にいた。洗い場にしゃがみこんで一心不乱になにか洗っている様子。のぞき込んでみると、真っ黒に汚れた、通園バッグというのか、布製の手提げ。何やら模様があるが、それを浴槽ブラシでこすっている。「それじゃ、布が傷んじゃうよ」と声をかけるとなんとも恨めしそうな顔で私を見上げる。バッグを手にとれば、チューリップ畑で蝶と戯れる子ブタのアップリケ。汚れているが、なんとも可愛い。お母さんが作ってくれたと言う。昨日、幼稚園にもっていったら、先生には素敵とほめられ、友達には羨ましがられたという。それを得意がって見せびらかしているうち、水溜まりに落っことしてしまったという次第。「ああ、お母さん、がっかりするぞー」あ、いかん、ますます、娘は泣きそうになる。よし、お父さんが洗ってやろう。「お父さん、お洗濯できるの」不安気に娘がたずねる。だてに何年も独身生活をおくってはいないぞ。まかせなさいと、中性洗剤、柔軟剤、漂白剤を用意し、古ハブラシでアップリケの細かな部分の汚れを落とし始める。娘の眼差しが尊敬をおびた(?)ような気がした。洗って干す。半乾きになったところでアイロンをかけて仕上げる。どうだ。「きれいになったね」と娘がほっとしたように言う。「お母さんには、内緒にしておこうね」「ウン」とそこで、やっと娘が笑った。もうそろそろ、妻も帰ってくるころだ。父と娘の初めての秘密の話——。

昼下がりの秘密。日曜の昼下がり。ソファにごろり寝そべって怠惰を楽しんでいる。静かだ。「だらしない恰好して」と口喧しい妻は同窓会だとかで出かけている。静かだ——ウン、ちょっと静か過ぎやしないか。ゆり子はどこだ。休みには、どこかへ連れてけとうるさいあの子は。出かけた気配はないし、家を探してみる。風呂場にいた。洗い場にしゃがみこんで一心不乱になにか洗っている様子。のぞき込んでみると、真っ黒に汚れた、通園バッグというのか、布製の手提げ。何やら模様があるが、それを浴槽ブラシでこすっている。「それじゃ、布が傷んじゃうよ」と声をかけるとなんとも恨めしそうな顔で私を見上げる。バッグを手にとれば、チューリップ畑で蝶と戯れる子ブタのアップリケ。汚れているが、なんとも可愛い。お母さんが作ってくれたと言う。昨日、幼稚園にもっていったら、先生には素敵とほめられ、友達には羨ましがられたという。それを得意がって見せびらかしているうち、水溜まりに落っことしてしまったという次第。「ああ、お母さん、がっかりするぞー」あ、いかん、ますます、娘は泣きそうになる。よし、お父さんが洗ってやろう。「お父さん、お洗濯できるの」不安気に娘がたずねる。だてに何年も独身生活をおくってはいないぞ。まかせなさいと、中性洗剤、柔軟剤、漂白剤を用意し、古ハブラシでアップリケの細かな部分の汚れを落とし始める。娘の眼差しが尊敬をおびた(?)ような気がした。洗って干す。半乾きになったところでアイロンをかけて仕上げる。どうだ。「きれいになったね」と娘がほっとしたように言う。「お母さんには、内緒にしておこうね」「ウン」とそこで、やっと娘が笑った。もうそろそろ、妻も帰ってくるころだ。父と娘の初めての秘密の話——。

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