暮らし百景アーカイブ28

絵葉書の約束。久しぶりに訪れた部屋は、しんとして線香の匂いがした。あ、これがおばあちゃんちの匂いだ、と懐かしくなる。「タオルと、肌着と、あと何を持っていけばいいのかしら」窓を開けながら、母が言う。私はぽかんと立っている。祖母の入院は少し長引くようで、入り用の物を持っていくことになった。男手も要ると、帰省中の私もかり出された。前はよく遊びにきた。子どものころはここなら’炭酸の‘ジュースが飲めるのが嬉しかったなあ。貧乏旅行の前には餞別もあてにしたっけ。遠くに就職して、結婚して、最近はすっかり足が向かなくなってしまっている。「ねえ、こんなものあったわよ」母が、輪ゴムで閉じられた葉書の束を持ってきた。「これ全部、あなたが寄越したものみたい」それは絵葉書で、私が旅先から出したもののようだ。家族旅行、スキー、学生時代の一人旅。楽しみに読んでいると聞いて、以前は結構まめに送っていたものだった。最後の一枚——それは卒業旅行のときでカナダの湖の絵柄だった——を手にとると、私はこう綴っていた。『とても美しい景色で、一度連れてきたいようなところです』それは約束ともいえないような、弾みで書いた一文だった。が、今読み返すとなにか大きな忘れ物をしているような気が急にしてくるのであった。外国とはいかないけれど。退院したら、祖母をどこかに、そう大好きな温泉にでも連れていこうか……。

絵葉書の約束。久しぶりに訪れた部屋は、しんとして線香の匂いがした。あ、これがおばあちゃんちの匂いだ、と懐かしくなる。「タオルと、肌着と、あと何を持っていけばいいのかしら」窓を開けながら、母が言う。私はぽかんと立っている。祖母の入院は少し長引くようで、入り用の物を持っていくことになった。男手も要ると、帰省中の私もかり出された。前はよく遊びにきた。子どものころはここなら’炭酸の‘ジュースが飲めるのが嬉しかったなあ。貧乏旅行の前には餞別もあてにしたっけ。遠くに就職して、結婚して、最近はすっかり足が向かなくなってしまっている。「ねえ、こんなものあったわよ」母が、輪ゴムで閉じられた葉書の束を持ってきた。「これ全部、あなたが寄越したものみたい」それは絵葉書で、私が旅先から出したもののようだ。家族旅行、スキー、学生時代の一人旅。楽しみに読んでいると聞いて、以前は結構まめに送っていたものだった。最後の一枚——それは卒業旅行のときでカナダの湖の絵柄だった——を手にとると、私はこう綴っていた。『とても美しい景色で、一度連れてきたいようなところです』それは約束ともいえないような、弾みで書いた一文だった。が、今読み返すとなにか大きな忘れ物をしているような気が急にしてくるのであった。外国とはいかないけれど。退院したら、祖母をどこかに、そう大好きな温泉にでも連れていこうか……。

絵葉書の約束。久しぶりに訪れた部屋は、しんとして線香の匂いがした。あ、これがおばあちゃんちの匂いだ、と懐かしくなる。「タオルと、肌着と、あと何を持っていけばいいのかしら」窓を開けながら、母が言う。私はぽかんと立っている。祖母の入院は少し長引くようで、入り用の物を持っていくことになった。男手も要ると、帰省中の私もかり出された。前はよく遊びにきた。子どものころはここなら’炭酸の‘ジュースが飲めるのが嬉しかったなあ。貧乏旅行の前には餞別もあてにしたっけ。遠くに就職して、結婚して、最近はすっかり足が向かなくなってしまっている。「ねえ、こんなものあったわよ」母が、輪ゴムで閉じられた葉書の束を持ってきた。「これ全部、あなたが寄越したものみたい」それは絵葉書で、私が旅先から出したもののようだ。家族旅行、スキー、学生時代の一人旅。楽しみに読んでいると聞いて、以前は結構まめに送っていたものだった。最後の一枚——それは卒業旅行のときでカナダの湖の絵柄だった——を手にとると、私はこう綴っていた。『とても美しい景色で、一度連れてきたいようなところです』それは約束ともいえないような、弾みで書いた一文だった。が、今読み返すとなにか大きな忘れ物をしているような気が急にしてくるのであった。外国とはいかないけれど。退院したら、祖母をどこかに、そう大好きな温泉にでも連れていこうか……。

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