暮らし百景アーカイブ23

ダンディーの理由。娘の私から見ても、父は粋な八十歳だった。通院の日も、ストライプのシャツにスカーフ、濃紺のジャケット。中折れ帽をかぶったその姿は、まるで銀座のバーにでも行くかのようで。大病しているなんて誰が信じただろう。「もっとラフでいいのに。診察で脱いだり着たりするんでしょ。」と言っても聞かない。それどころか、やれ、あのシャツはどこへいった。アイロンが雑だ。そんなふうに干したら色があせる、と普段から細かいことを母には言いたい放題らしく…。看病だけでも手がかかるのに、「いい加減にして!」という言葉が何度も出かかった。ある日。「いくら病人だからって、わがままが過ぎるわ。私、ちゃんと言おうか。」と言うと母は、「お父さんがおしゃれするのは、私のためなのよ。病人だからって見すぼらしい格好していたら、付き添うお前も嬉しくないだろ、って。あの人、昔からそうだった。お金が無かった結婚当時も着るものはきちんとしていたわ。心まで貧乏してはいけないって思っていたのね。そんなお父さんを好きになったの。」何もわかっていなかった、四十にもなって…。涙が止まらなかった。それから私は、何度かすすんで父の通院に付き添った。二人でデートをしている気分と服装で。 最後のデートはもう一年前のことになったけれど、その日のダンディーな父が今も写真でほほ笑んでいる。

ダンディーの理由。娘の私から見ても、父は粋な八十歳だった。通院の日も、ストライプのシャツにスカーフ、濃紺のジャケット。中折れ帽をかぶったその姿は、まるで銀座のバーにでも行くかのようで。大病しているなんて誰が信じただろう。「もっとラフでいいのに。診察で脱いだり着たりするんでしょ。」と言っても聞かない。それどころか、やれ、あのシャツはどこへいった。アイロンが雑だ。そんなふうに干したら色があせる、と普段から細かいことを母には言いたい放題らしく…。看病だけでも手がかかるのに、「いい加減にして!」という言葉が何度も出かかった。ある日。「いくら病人だからって、わがままが過ぎるわ。私、ちゃんと言おうか。」と言うと母は、「お父さんがおしゃれするのは、私のためなのよ。病人だからって見すぼらしい格好していたら、付き添うお前も嬉しくないだろ、って。あの人、昔からそうだった。お金が無かった結婚当時も着るものはきちんとしていたわ。心まで貧乏してはいけないって思っていたのね。そんなお父さんを好きになったの。」何もわかっていなかった、四十にもなって…。涙が止まらなかった。それから私は、何度かすすんで父の通院に付き添った。二人でデートをしている気分と服装で。 最後のデートはもう一年前のことになったけれど、その日のダンディーな父が今も写真でほほ笑んでいる。

ダンディーの理由。娘の私から見ても、父は粋な八十歳だった。通院の日も、ストライプのシャツにスカーフ、濃紺のジャケット。中折れ帽をかぶったその姿は、まるで銀座のバーにでも行くかのようで。大病しているなんて誰が信じただろう。「もっとラフでいいのに。診察で脱いだり着たりするんでしょ。」と言っても聞かない。それどころか、やれ、あのシャツはどこへいった。アイロンが雑だ。そんなふうに干したら色があせる、と普段から細かいことを母には言いたい放題らしく…。看病だけでも手がかかるのに、「いい加減にして!」という言葉が何度も出かかった。ある日。「いくら病人だからって、わがままが過ぎるわ。私、ちゃんと言おうか。」と言うと母は、「お父さんがおしゃれするのは、私のためなのよ。病人だからって見すぼらしい格好していたら、付き添うお前も嬉しくないだろ、って。あの人、昔からそうだった。お金が無かった結婚当時も着るものはきちんとしていたわ。心まで貧乏してはいけないって思っていたのね。そんなお父さんを好きになったの。」何もわかっていなかった、四十にもなって…。涙が止まらなかった。それから私は、何度かすすんで父の通院に付き添った。二人でデートをしている気分と服装で。 最後のデートはもう一年前のことになったけれど、その日のダンディーな父が今も写真でほほ笑んでいる。

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