暮らし百景アーカイブ14

古いアルバム。この春、父の三回忌があった。小学校に上がる直前の息子を連れて、久しぶりに兄夫婦のいる実家に戻った。法要もすんだ後、兄がこの際、整理でもしておくかと、父のゆかりの品々を座敷に持ち出してきた。広げられた懐かしい数々を前に、私達は思い出話に花を咲かせた。息子はと見ると、いやに熱心に古いアルバムに見入っている。側へ寄ると「この人、誰?」と一枚のモノクロ写真を指さした。額の汗を手の甲で拭いながらこちらへ笑顔を向ける、ランニングシャツ姿の逞しい青年。「おじいちゃんよ」「エッ、ホント」息子は闘病生活を送っていた父の姿しか知らない。「ふーん、カッコ良かったんだ、おじいちゃんて」はるか昔、私もこの写真を初めて見て、息子と同じように「ウチのお父さんて、ハンサムだったんだ」と心ひそかに誇らしく思ったことを今も忘れずにいる。私の知らない父。私を知らなかった頃の若い父——。それがきっかけだったと思う。自分の見聞きや考えが、世の中の全てだという子供の確信が揺らぎ、大人や他人という別の世界があることを漠然と感じ始めたのは。「これは?」息子が指したのは、着物姿のうら若き女性。「おばあちゃんよ」早くに亡くなった母のことを息子は当然ながら知らない。「きれいだったんだね」「そりゃそうよ、私のお母さんだもの」私は、自慢気に答える。

古いアルバム。この春、父の三回忌があった。小学校に上がる直前の息子を連れて、久しぶりに兄夫婦のいる実家に戻った。法要もすんだ後、兄がこの際、整理でもしておくかと、父のゆかりの品々を座敷に持ち出してきた。広げられた懐かしい数々を前に、私達は思い出話に花を咲かせた。息子はと見ると、いやに熱心に古いアルバムに見入っている。側へ寄ると「この人、誰?」と一枚のモノクロ写真を指さした。額の汗を手の甲で拭いながらこちらへ笑顔を向ける、ランニングシャツ姿の逞しい青年。「おじいちゃんよ」「エッ、ホント」息子は闘病生活を送っていた父の姿しか知らない。「ふーん、カッコ良かったんだ、おじいちゃんて」はるか昔、私もこの写真を初めて見て、息子と同じように「ウチのお父さんて、ハンサムだったんだ」と心ひそかに誇らしく思ったことを今も忘れずにいる。私の知らない父。私を知らなかった頃の若い父——。それがきっかけだったと思う。自分の見聞きや考えが、世の中の全てだという子供の確信が揺らぎ、大人や他人という別の世界があることを漠然と感じ始めたのは。「これは?」息子が指したのは、着物姿のうら若き女性。「おばあちゃんよ」早くに亡くなった母のことを息子は当然ながら知らない。「きれいだったんだね」「そりゃそうよ、私のお母さんだもの」私は、自慢気に答える。

古いアルバム。この春、父の三回忌があった。小学校に上がる直前の息子を連れて、久しぶりに兄夫婦のいる実家に戻った。法要もすんだ後、兄がこの際、整理でもしておくかと、父のゆかりの品々を座敷に持ち出してきた。広げられた懐かしい数々を前に、私達は思い出話に花を咲かせた。息子はと見ると、いやに熱心に古いアルバムに見入っている。側へ寄ると「この人、誰?」と一枚のモノクロ写真を指さした。額の汗を手の甲で拭いながらこちらへ笑顔を向ける、ランニングシャツ姿の逞しい青年。「おじいちゃんよ」「エッ、ホント」息子は闘病生活を送っていた父の姿しか知らない。「ふーん、カッコ良かったんだ、おじいちゃんて」はるか昔、私もこの写真を初めて見て、息子と同じように「ウチのお父さんて、ハンサムだったんだ」と心ひそかに誇らしく思ったことを今も忘れずにいる。私の知らない父。私を知らなかった頃の若い父——。それがきっかけだったと思う。自分の見聞きや考えが、世の中の全てだという子供の確信が揺らぎ、大人や他人という別の世界があることを漠然と感じ始めたのは。「これは?」息子が指したのは、着物姿のうら若き女性。「おばあちゃんよ」早くに亡くなった母のことを息子は当然ながら知らない。「きれいだったんだね」「そりゃそうよ、私のお母さんだもの」私は、自慢気に答える。

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