暮らし百景アーカイブ12

ロングウェイエクスプレス。「課長、寝台で行くんですか?」同僚が怪訝な顔で、私を見送った。「へえ、山口の出張に、わざわざ在来線で」山口県のT市まで13時間かかる。私が東京駅から寝台列車に乗った理由は、その時間の長さだった。家庭でも、むろん会社でも、自分ひとりで過ごせる暇などこうでもしなければ作れない。ゆっくり考え事でもしていこう。ビールを飲む。町の灯かりを眺める。和彦のやつ、どうするかな。職探しをしている息子のことが、ずっと気にかかっている。父として、よいアドバイスをしたいと思うのだが。息子の志願する建築デザインの世界というものが、私にはとんと見当がつかない。ぼうっとして無口。あいつ、真剣に考えているのだろうか……。向かいの寝台に青年が乗りこんだ。参考書を開き、しきりにペンで赤線を引いている。「学生さんですか」「受験です。ええと、実はサラリーマンをしてたんですけど」「ではお歳は」「26なんです」聞けば、商社を辞めて、保育士になるのだという。「やっとやりたいことが分かったので」青年は笑った。屈託のない青年の姿に、息子がだぶる。若いうちは——それができるうちならば、よくよく悩んでみるべきなのかもしれない。がんばれ。君も、和彦も。道のりはまだ半分にも達していない。若者には希望があるが、私だって。帰ったら、息子と酒でも。あれ、あいつは呑めたかな。

ロングウェイエクスプレス。「課長、寝台で行くんですか?」同僚が怪訝な顔で、私を見送った。「へえ、山口の出張に、わざわざ在来線で」山口県のT市まで13時間かかる。私が東京駅から寝台列車に乗った理由は、その時間の長さだった。家庭でも、むろん会社でも、自分ひとりで過ごせる暇などこうでもしなければ作れない。ゆっくり考え事でもしていこう。ビールを飲む。町の灯かりを眺める。和彦のやつ、どうするかな。職探しをしている息子のことが、ずっと気にかかっている。父として、よいアドバイスをしたいと思うのだが。息子の志願する建築デザインの世界というものが、私にはとんと見当がつかない。ぼうっとして無口。あいつ、真剣に考えているのだろうか……。向かいの寝台に青年が乗りこんだ。参考書を開き、しきりにペンで赤線を引いている。「学生さんですか」「受験です。ええと、実はサラリーマンをしてたんですけど」「ではお歳は」「26なんです」聞けば、商社を辞めて、保育士になるのだという。「やっとやりたいことが分かったので」青年は笑った。屈託のない青年の姿に、息子がだぶる。若いうちは——それができるうちならば、よくよく悩んでみるべきなのかもしれない。がんばれ。君も、和彦も。道のりはまだ半分にも達していない。若者には希望があるが、私だって。帰ったら、息子と酒でも。あれ、あいつは呑めたかな。

ロングウェイエクスプレス。「課長、寝台で行くんですか?」同僚が怪訝な顔で、私を見送った。「へえ、山口の出張に、わざわざ在来線で」山口県のT市まで13時間かかる。私が東京駅から寝台列車に乗った理由は、その時間の長さだった。家庭でも、むろん会社でも、自分ひとりで過ごせる暇などこうでもしなければ作れない。ゆっくり考え事でもしていこう。ビールを飲む。町の灯かりを眺める。和彦のやつ、どうするかな。職探しをしている息子のことが、ずっと気にかかっている。父として、よいアドバイスをしたいと思うのだが。息子の志願する建築デザインの世界というものが、私にはとんと見当がつかない。ぼうっとして無口。あいつ、真剣に考えているのだろうか……。向かいの寝台に青年が乗りこんだ。参考書を開き、しきりにペンで赤線を引いている。「学生さんですか」「受験です。ええと、実はサラリーマンをしてたんですけど」「ではお歳は」「26なんです」聞けば、商社を辞めて、保育士になるのだという。「やっとやりたいことが分かったので」青年は笑った。屈託のない青年の姿に、息子がだぶる。若いうちは——それができるうちならば、よくよく悩んでみるべきなのかもしれない。がんばれ。君も、和彦も。道のりはまだ半分にも達していない。若者には希望があるが、私だって。帰ったら、息子と酒でも。あれ、あいつは呑めたかな。

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