December|12月 師走 記憶の中の香り ストーブの香り

December|12月 師走 記憶の中の香り ストーブの香り

December|12月 師走 記憶の中の香り ストーブの香り

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みしっと台所の床がきしむ。
まどろみながら聞く、ひかえめな足音。
忍びの者だ……。
やがてカチャンとステンレスの柵をはずす響き。
つまみを三回まわす気配。
マッチを擦るかすれた音。
忍法、点火の術だな。

久しぶりの里帰り。

雪が町を包み込む静かな朝だ。
毛布をあごまでかぶり、つめたくなった鼻からスーッと空気を吸う。
かすかにただようストーブの匂い。
やさしい野生動物みたいな香りが昔から好きだった。

「もう子どもじゃないんだから、朝は一人で起きなさいよ」
忍びの者の口癖だ。
起きてますよ。起きてるけれど、寝てるふり。
もうすぐストーブの上でお味噌汁があったまる。
みんなを起こさないように、抜き足差し足忍び足で、
今日をはじめるお母さんが、
「朝ごはんできたよ」と起こしに来るのを待っている。

投稿:ねこじゃらしさん 執筆:文筆家 さくらいよしえ

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