september|9月 長月 記憶の中の香り たき火の香り

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小学校5年生のメインイベントは林間学校だった。
飯ごう炊飯が終わる頃、ホームシックは突然やってきた。
黒いマントがおおいかぶさったような深い夜。
暗闇から聞こえる山のざわめきが怖くて、泣きたくなった。
その時ふとただよう、薪が燃えるあたたかな匂い。
「みんな集合〜」
キャンプファイヤーだ。
赤く立ちあがる炎を囲み、合唱に隠し芸。そしてフォークダンス。
オクラホマミキサーのメロディに、いつしか胸は弾んでいた。
たき火の向こう側に、ちょっと気になるクラスの男子。
陽気なリズムが繰り返すごと、少しずつ近づく。
ああどうしよう、あと一人か二人……。
鼓動が早くなり息がとまりそうになった瞬間、あっけなく音楽は終わった。

大人になって久しぶりのキャンプ場。
火にくべた薪の香りが、少女だったあの夏を呼び戻す。
たき火の上にまるく広がる満天の星と、好きだった人の横顔。

投稿:吉田夫人さん 執筆:文筆家 さくらいよしえ

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