就職を機に、大好きだったバスケをやめた。
得意だったのはレイアップシュート。ドリブルでゴールへ切り込み、ボールを 空中に置いてくる。パサっというゴール音は、何度聞いても私を高揚させた。
学生時代は毎日バスケばかりしていた。だから体育館には、私の青春が詰 まっている。特に梅雨の時期、湿気で汗やらゴムやらの匂いが充満した館内 は、ボールの音がよく響く。その中でする練習が好きだった。
ふと、あの香りが恋しくなって、社会人3年目にバスケを再開。 鉄製のドアを開け、久しぶりに体育館に入ると、 もわっとした独特な香りが私を迎えてくれた。
ボールを持った私は、自然とドリブルしながらゴールへと駆け出す。 ジャンプして、ボールを空中に置いてくる。パサッと音がして、私は床に着地 する。と同時に、ふわっと“あの頃と同じ”青春の香りが漂った。
「おかえり」と言われた気がして、私は思わず「ただいま」と口にしていた。
投稿:えぃみぃさん 執筆:ライター/脚本家 赤坂匡介