February|2月 如月 記憶の中の香り 醤油ラーメンの香り

February|2月 如月 記憶の中の香り 醤油ラーメンの香り

February|2月 如月 記憶の中の香り 醤油ラーメンの香り

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「暖冬」とはいえ、冬は冬。外に出れば、鼻が痛くなるほど寒い。
取引先との打ち合わせを終えた僕は、肩をすぼませ駅へと向かう。
途中、中華料理店の前を通りかかると、懐かしい香りと再会した。
醤油ラーメンの匂いだ。

フリーターだった19歳の頃、中華料理店で配達のバイトをしていた。
風除けのないバイクは、冬になると顔はもちろん、手までかじかんだ。

ある雨の日、雨粒が僕の全身から熱を奪い、最後の配達から戻ると、震えが
止まらなかった。しかしそんな僕の前でマスターが何かを作っている。
「え、まだ配達あるんすか」思わず本音がこぼれた。
「お前のだよ」と言って、マスターは笑った。

僕の前に熱々のラーメンが置かれると、湯気とともに、甘い醤油の香りが
ふわりと漂った。嗅ぎ慣れた匂いのはずなのに、妙に心にしみた。
なぜか、涙がこぼれそうになった――。

マスター、お元気ですか?
あれから17年、僕はずっと、醤油ラーメン派ですよ。

ライター/脚本家 赤坂匡介

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