2020は、ほめてみよう 「ほめる」を脳から考える

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2020は、ほめてみよう 「ほめる」を脳から考える

ほめられると、ちょっとうれしくなりますね。「ほめて育てる」という言葉もよく聞きます。
「ほめる」ことを、スポーツトレーニングやリハビリなどに効果的に取り入れようとするところも増えてきました。これは、ほめられることによる脳の反応が、わたしたちに様々な効果をもたらすことがわかってきたからです。今回は「ほめる」を脳科学の分野から研究されている定藤規弘(さだとう のりひろ)先生にお話をうかがってきました。

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人が無事に生きていくために大切なことが3つあります。まずは心身が健康であることと、次に食べていけるだけのお金があること。そして3つめは、周囲の人たちに受け入れられている状態。これを脳科学の分野では「社会的承認」と言います。人は社会的な生き物なので、他者に受け入れられ、認められる、つまり社会的に承認されるということが、健康やお金と並んで大切なことなのです。「ほめられる」ということはまさにそれが満たされることを意味するので、ほめられてうれしくなるのは、人間の持つ根源的な性質なのだそうです。 

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こんな実験があります。大学の中のカフェテリアに無人のミルク販売所を設置して、人の善意でお金を入れてもらうようにしておきます。そしてボックス前に、ポスターを貼ります。このポスターが「花」の時と「人の目」の時とでは、人の目の時の方が、現金回収率が高くなるのです。誰かの視線が、無意識下に影響を与えているのだとか。他者から悪く思われたくない、認められたいという性質は、こんなところにも現れてしまうのです。

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参考:他者からの良い評判・評価を報酬として予測することによって向社会行動を選択する、検証実験
Adapted from Bateson, Nettle & Roberts (2006)

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脳の中央のあたりに「線条体」という部分があります。この部分は「報酬系」とも呼ばれ、お金をもらったときに反応を示すことがわかっています。MRIを使用した実験では、他者からよい評判を得たときに、この部分がお金をもらった時と同じように反応することがわかりました。脳にとっては「ほめられること」も「報酬の一種」といえます。

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参考:線条体における社会的および金銭的報酬の処理、検証実験
Izuma K, Saito DN, Sadato N(2008)Processing of Social and Monetary Rewards in the Human Striatum. Neuron 58:284-294.

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お金を受けとることと、ほめられることは、脳内では同じ「報酬系」が反応します。でもほめられた時にはさらに違う部分も反応することがわかっています。それは、脳の前頭前野の内側、コミュニケーションに関わる部分。ここには他人と自分の関係を認知する機能が備わっており、相手の表情などから意図を読みとったり、その人の言葉が「本当かどうか」などを見極めているのだそう。

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100点をとった子どもをほめる時、「頭いいね!」と言いますか? それとも「がんばったね!」と言いますか? 「頭がいい」は、天から与えられた能力なので、失うまいと失敗を恐れるようになります。でもがんばる、つまり努力するという行為は、自律的なもので、自分次第。育てるときには、この努力と自律性を「ほめる」根拠とすること、そしてどういう努力がどう結果に結びついたのか、という具体的なフィードバックを示すことが大切です。また、信頼関係があれば、「ほめ」はより効果的に働きます。

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ふだんから誠実な言語コミュニケーションを心がけることです。礼儀正しく、友好的に接し、自分の意見を押しつけずに選択肢を与えること。発信する情報に嘘がないことはもちろん、必要な量だけを十分に、曖昧さを避けて提供することが大切です。信頼関係は、そんな「助けになり、決して害を与えない」言語コミュニケーションの中でこそ育まれるのです。

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理想的な学習とは、学習の楽しさ、自分の意欲がモチベーションとなって行われるものです。でも「ほめられること」自体が目的になってしまうと、常にほめられないとやらなくなってしまう可能性も・・・。

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とても面白いゲームを用意して、A、B2つのチームに遊んでもらいます。Aのチームには面白いゲームをしてもらうだけ。Bのチームには点数に応じてお金を渡します。また別の日に2チームを呼んで同じゲームをしてもらい、今度はBにはお金が渡されないことを伝えます。すると、Bチームはゲームがつまらなく思えるのです。

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参考:線条体における社会的および金銭的報酬の処理、検証実験
Izuma K, Saito DN, Sadato N(2008)Processing of Social and Monetary Rewards in the Human Striatum. Neuron 58:284-294.

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ほめられること、つまり脳科学の分野における「社会的承認」は、人間にとって食べ物や健康と同じくらい大切なもの。この社会的承認が、さらに広く評判として伝播していけば、素晴らしい人なら自分も支えたいと思う人たちが現れ、助け合いの連鎖が生まれていきます。そうしてできた社会は、お互いが認め合わない社会に比べて、生存力があり強いと考えられています。認め、ほめ合うことは、喜ばせ合うことにとどまらず、社会の発展にもつながることといえるのです。「ほめる」ことに、こんな力があったんですね!

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定藤 規弘(さだとう のりひろ)先生 

京都大学医学部卒、同大学院修了、医学博士。 自然科学 研究機構生理学研究所 システム脳科学研究領域 教授。認知、記憶、思考、行動、情動、感性などに関する脳活動を中心に、人を対象とした実験的研究を推進している。

1990年ごろから、脳の血流の変化を見ることで神経活動の変化のマップを作ることができるようになり、「ほめる」ことが脳に及ぼす影響も明らかになってきました。日本には、ほめることを重んじる文化が長いことなかったので、今なおのこと「ほめる」というテーマがクローズアップされているのかもしれませんが、脳科学の見地から言えば、ただほめるのではなく、「適切な情報をフィードバックしながら、その人の自律性や努力を認めてほめることが大切」ということになります。参考にしてみてくださいね。

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2020年1月掲載

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