みなさんは1日にどのくらい笑っていますか?ほほえむだけではなく「ははは」などと声を出した笑いです。最近そんな「笑い」の心身への効果が次々と科学的に証明され、世界的にアツい注目を集めています。しかも日本はこの分野の研究において最先端を行っているとか。今日は、笑いの専門家、福島医科大学の大平哲也先生にお話をうかがい、笑いの持つパワーのヒミツにせまります!
笑いの効果のひとつは運動です。最近の研究によれば、15分間笑うと40kcalほど消費するとか。また落語を聴いているときのエネルギー消費量は、安静時の約2倍になるという研究結果もあります。腹筋も使うので、本格的な運動がわりとまではいかなくても、日々の生活にちょっと足してみるとよいでしょう。
もうひとつ、笑いに期待できる効果は、ストレスの緩和です。まず脳がリラックスします。頭の中がからっぽになって、リセットされます。心から面白くて笑っていると、嫌なことも忘れちゃいますよね。これが、麻酔をかけたときのストレスホルモンの減少と同じような効果をもたらすという研究結果もあるんです。
この図は、男子学生5名を対象に、コメディ映像を60分間見せた場合の、副交感神経機能を表すHF値の変化です。HF値が高いほど、リラックスしていることになりますが、明らかに笑い時間と比例していることがわかります。
JOHNS vol.31 No.8 2015 特集「自律神経をもう一度考える」 大平哲也「自律神経の制御 笑いの効用」
以下のグラフは笑っている人の認知症症状出現率は、笑っていない人よりも低いというデータを示したものです。また、笑いが、認知症の危険因子である、うつや睡眠不足を緩和し、認知症と関わりが深いと思われている循環器疾患の原因である心拍数や血圧の上昇を抑えることも報告されています。
「笑いは認知症を予防する」と断定するには、さらなる追跡期間と症例が必要ですが、少なくとも、大きな期待が持てることは確かです。
世論時報社「最新精神医学」20巻5号2015年9月
大平哲也「笑いと認知症予防」
糖尿病患者さんの食前から食後にかけての血糖値の増加度を、糖尿病に関する講義を40分聞いた後と、ベテラン芸人による漫才を40分聞いた後で、測定・比較した結果、漫才を聞いた後の血糖値のほうが、50近く抑えられるという結果が出ました※1 。そこで、さらに調べてみると、笑っている人ほど糖尿病が少ないという事実がわかりました。
※1 筑波大学 名誉教授 村上和雄氏らの研究による
日本では笑いに男女差があり、女性は5割以上の人がよく笑っているのに対して、男性は約4割しか笑っていません。人がもっとも笑うのは、誰かと会って話をしているときなので、笑いの頻度はおしゃべりの頻度とも比例してきます。
日本では、女性のほうがよくしゃべり、よく笑うようですね。でもアメリカ人の場合は、笑いもおしゃべりも、男女で同じくらいという結果になります。コミュニケーションのあり方が、国によって異なるんですね。
世論時報社「最新精神医学」20巻5号2015年9月
大平哲也「笑いと認知症予防」
ストレスを緩和したり血糖値を下げたりする「笑い」の基準は「声に出して笑う」です。少しおかしいと思われるかもしれませんが、落ち込んだときには、形だけでも笑顔をつくり、声を出して笑ってみましょう。実は、そんな形だけのニセ笑いでも、脳は笑っていると勘違いして、リラックス作用が強くなるんです。ニセ笑いを利用した「笑いヨガ」を生活にとりいれてみるのもオススメです。最初は体操のように笑うふりから始めるのですが、最後には本当に笑い始めてしまうことも多いようですよ。
インドのマダン・カタリア博士が、誰でも理由なく笑える方法として、笑いの体操とヨガの呼吸、演劇的要素などを組み合わせて考案したもの。ポーズを作ったり、状況を想像したりしながら、「ホッホッハハハ」とニセ笑いします。100カ国以上の国で普及し、気持ちが晴れる効果が期待されるとして、うつ病の治療にもとりいれられています。
笑いは自然に出るものと思われがちですが、実は習慣の影響も大きいのです。笑うときに働く大頰骨筋(だいきょうこつきん)、通称「笑い筋(わらいきん)」と言いますが、これは使わないと動かなくなってしまいます。ニコニコするだけでもよいので、積極的に「笑い筋」を動かし、笑うことを習慣にしておくことが、笑いのパワーをたくさんもらうための一歩になるのです。
赤ちゃんは生まれて8~10ヶ月くらいから、笑うことができるようになります。でも笑っても大人が無視すると、「ああ、笑っても何にもいいことないんだな」と学習してしまい、笑わない子になってしまいます。赤ちゃんが笑ったときには、ちゃんと笑顔を返してあげてくださいね。そうすることでより笑うようになります。
集中には、まずリラックスすることが必要です。笑いは自律神経に働きかけ、副交感神経機能をアップし、心理的なストレスを軽減するため、結果、脳をリラックスさせ、集中力を高めることにも貢献するのです。学校や塾の授業、会社のプレゼンなどでも、最初にちょっとユーモアをとりいれて笑いを呼ぶことで、聞いている人を集中させることができるはずです。ぜひ試してみてください。
笑いは、それだけでも心やカラダによい影響を与えます。ここでご紹介した血糖値の上昇抑制のほかにも、免疫細胞の活発化、炎症物質の減少、うつの改善などに関する研究結果も次々と発表されています。また、笑顔でいれば人が声をかけやすくなり、コミュニケーションが広がって、さらなる笑いが生まれていきます。今年はぜひ、1日1回、鏡にむかってニッコリする習慣をつけてください。あなた自身が心身すこやかに過ごせるだけではなく、周囲にもよい連鎖が生まれていくはずです!
和歌山県の日高川町にある丹生(にう)神社。ここで毎年、体育の日の直前の日曜日に催される「丹生祭」は、「笑い祭」として有名で、県の無形民俗芸能にも指定されています。鈴振りと呼ばれる人が、おどけた化粧と派手な衣装で、町内を「笑え、笑え」と練り歩きます。神代の昔、出雲の神さまの会議に参加する予定だった丹生都姫命が寝坊してしまい、ショックのあまりふさぎこんでしまったのを、村人たちが「笑え、笑え」と元気づけたのが始まりだと言われています。日本の奇祭として知られるだけあって、インパクト満点。笑いの力は、昔から日本の人々を元気にしてきたんですね。
大阪府立健康科学センター主幹兼医長、ミネソタ大学疫学・社会健康医学部門研究員を経て現職。専門は公衆衛生学、疫学、予防医学、内科学、心身医学。生活習慣病、認知症などの身体・心理的リスクファクターの研究、心理的健康と生活習慣との関連についての研究を行うとともに、運動、音楽、笑いなどによる効果的なストレス解消法についての実践的研究を行っている。
2017年1月掲載