洗剤原料となるアブラヤシは東南アジアを中心に大規模栽培が行われており、森林伐採などの問題とつながっています。
今後、世界の人口増加に伴い、さらに洗剤の需要が高まることが考えられます。このまま限られた原料に頼っていると、森林伐採が進み、環境破壊や労働者の人権問題が深刻化する恐れがあります。
そこで花王では、食用には不向きで、水に溶けにくい特性から洗剤にも使えず余剰となっていた「パーム油」「パーム核油」を採取する際に出る固体の油脂を使って界面活性剤を作ることができないか、研究を重ねました。
そして、界面活性剤の分子構造を変えるという科学的なアプローチを行うことで、従来よりも水に溶けやすく少ない洗剤量で汚れを落とせるうえに、高い洗浄力を発揮する革新的な界面活性剤、『バイオIOS』の開発に成功。
『バイオIOS』は地球にやさしい、サステナブルな原料調達をめざした界面活性剤なのです。
界面活性剤を分かりやすく説明するならば、水洗いでは落ちない油汚れなどを落とす成分のこと。『親水基』と『親油基』と呼ばれる2つの「ユニット」が、本来は混じり合わない油と水をつないで、なじみやすくする性質を持っています。
まず『親油基』が衣類にしみ込んだ皮脂などの油汚れに吸着して汚れを包み込みます。もう一つの『親水基』が汚れを衣類から水の中に浮かびあがらせます。浮かびあがった油汚れは衣類に付着しなくなるため、水ですすぐときれいに洗い流すことができるのです。
『バイオIOS』開発者に
聞きました!
“今までとは違う”
界面活性剤が、
めざす未来とは
『バイオIOS』って何が今までとは違うの?
将来的にはどんなものに使われるの?
バイオIOSを開発した、坂井博士にお話を伺いました。
工学博士。1992年、花王(株)に入社以来、素材研究所(現マテリアルサイエンス研究所)において、機能性界面活性剤の分子設計、工業的製法の開発など多岐にわたる界面活性剤の研究・開発に従事。
『バイオIOS』って、どう環境にやさしくて、
どんなところが画期的なの?
植物原料100%、しかも高機能な界面活性剤なんです!
衣料用洗剤に使われている界面活性剤は主に植物原料で作られていますが、100%植物原料で作られているわけではなく、石油化学原料も含まれているんです。
温暖化や原料調達のサステナビリティの問題から石油化学原料は使わないのが望ましいですが、仮に植物原料100%の界面活性剤が開発されたとしても「現在の界面活性剤のような高機能なものは作れない」というのが世界の常識でした。
『バイオIOS』は植物原料100%、食用には適さない部分の油脂を使っているので食料供給に影響なく原料を調達できる。しかも高機能なんです。
世界で不可能だと思われていたことを、唯一、花王が実現した。その点も画期的なことだと思っています。
※モデル油汚れ100μl/枚に対する洗浄性について各活性剤200ppm、3°DH硬水、25℃の条件で評価
※界面活性剤の洗浄効果を示しています
※各活性剤200ppm、4°DH硬水、25℃の条件で洗浄処理を行った際の綿布への活性剤残留性を評価
これから、『バイオIOS』は衣料用洗剤以外の
どんな製品に使われていくの?
さまざまな製品に活用することを考えています。
今、世界で作られている界面活性剤のほとんどが、衣料用洗剤に用いられています。
なので、原料生産地が抱える問題や将来的な洗剤需要の解決を考えた場合、まずは衣料用洗剤から変えていく必要がありました。
また、花王の製品が『バイオIOS』を使うだけでは世界規模の効果は期待できません。世界中で使われるようにならないと、本当の意味で環境への負荷を減らすことができるとは言えないんですよ。ですから、他のメーカーも含めて世界中で使ってもらえることを考えています。
不可能と言われていたことに挑戦し続ける
坂井博士が研究者として、常に意識していることとは?
正しいデータに基づいた良いものを作りたい。それが僕の企業研究員としてのスタンスであり、お客さまに対して真摯に向き合うことだと思っています。
何もないところから新しいものを生み出すのが研究だと僕は思っているんです。研究を志したからには世界一を目指さなければダメだとも思っています。人をびっくりさせることが好きなんですよ(笑)。ただ、研究を行ううえで、自由な発想と、しっかりした裏付けを大切にする。そんな僕自身の考えと、花王の社風が合っているのかもしれませんね。
環境への負荷を最小にして、
高機能な洗剤で
サステナブルで快適なくらし
をバックアップします
『バイオIOS』を配合した製品の第一弾が、
衣料用液体洗剤『アタックZERO』です。
今後は、衣料用洗剤に限らず、
さまざまな用途に広く活用するために、
さらに研究を進めています。
その結果、製品を使うだけで、
みなさんが知らず知らずのうちに
環境への負荷を低減させることにつながる。
そんな未来を、花王はめざしています。